世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年12月10日

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 11月15日、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定の参加国は、同協定に署名した。RCEPは、中国、日本、ASEAN加盟国など15カ国が参加し、世界のGDPの約3割を占める、大規模な新通商合意である。中国はRCEPを当初から推進してきた国であり、米国がTPPなどから後退し単独主義的通商政策を推進することで地域に生じた空白を、自らが経済成長、通商、投資の信頼できるパートナーであるとアピールできたと言える。

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 環太平洋経済連携の交渉に携わったカトラー元米通商代表部(USTR)次席代表代行は、RCEPの協定署名について、同氏がワシントン事務所長を務めるアジアソサエティ政策研究所のウェブサイトに11月15日付けで‘RCEP Agreement:Another Wake-up Call for the United States on Trade’と題する論考を掲載、アジア諸国が米国抜きで通商合意を実現することに自信を深めたこと、RCEPを精査し正当に評価するべきこと、RCEPが地政学的な影響を生むことなどを指摘し、バイデン次期政権のアジアへの再関与はアジアの4年間の変化を踏まえた協調的な姿勢が必要だと説いている。

 カトラーの次の指摘は重要であろう。すなわち、多国間の通商合意は、具体的な市場アクセスや規則の文言だけではない。RCEPは、共通の規則と関税率の低下に基づき、加盟国の経済の統合を促進する。また、RCEPは、中国、インドネシア、ニュージーランドなどの通商担当官や閣僚の人間関係を強固にし、他の会合や新規取り組みに好影響を与える。さらに、地域における他の課題に関する見解の相違や紛争に拘わらず、15カ国がRCEPの枠組みでまとまったことから、地政学的な影響が生じる。また、今回のRCEP合意が最終的なものではないことを理解することも重要で、ASEAN加盟国を基盤とした合意は、時間をかけて改善が図られる「生き物のような合意」であることが多い。

 カトラーは論考を「バイデン次期政権は国際社会に再度関与しようとする際に、4年前とは異なったアジア、つまりCPTPPとRCEPという二つの大規模な地域通商合意が締結されたアジアに直面するだろう。米国のアジアとの再関与は、新しい考えや取り組みを訴えかける前に、アジアのこうした変化を認識、評価、配慮することが必要になる」と結んでいる。

 ただし、バイデン次期政権でどのような通商政策が採用されるのかは明らかではない。 バイデン次期大統領は、選挙期間中は激戦州における自身の基盤的支持層である労働組合に配慮し、通商に関する発言は限定的であり、自由貿易を推進する姿勢は示さなかった。トランプ政権の4年間の単独行動主義的な通商政策により米通商代表部の職員、姿勢、能力も変化している。

 バイデンは11月16日、デラウェア州での演説で通商に関して触れた。しかし、①米国の労働者の国際的競争力を向上させる、②環境と労働を通商交渉で重視する、③懲罰的な手段には訴えない、という内政的な視点を通商政策の3条件として提示する一方で、自由貿易の促進に対する前向きな発言はなかった。また、続く記者会見ではRCEPの合意についての見解を質問されたが、RCEPが何を意味しているのか戸惑ったような雰囲気で、個別の外交課題には言及しないと対応した。さらに、気候変動については言及しているではないかと 追及されると、明確な受け答えはなかった。いささか不安を覚えさせる話ではある。通商課題についてはこれからということだろう。バイデンが次期米通商代表に誰を指名するかが、政権の通商政策の指針を映す鏡になる。

  
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