世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年7月3日

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 5月の初めより、中国軍とインド軍はヒマラヤの国境地帯でにらみ合いを続けていたが、6月15日に両軍が衝突、インド側の発表によればインド軍兵士20名が死亡した。これは、ここ45年で初めての事態である。

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 今回の事件の発端は、よくわからない。インドは中国側が実効支配線(事実上の国境)を越えてきたと主張し、中国は「国境」を超えていたのはインド側であると主張している。インド側の死者が20人、中国側の死者が3人とされているが、中国側がより攻撃的であったと推測される。双方とも銃を使わないで殴り合いをした衝突であったらしい。

 6月17日、中国の王毅外相とインドのジャイシャンカル外相は電話会談を行い、互いに相手側が「国境」を超えたと非難しつつも、国境地帯での平和と安定の維持で合意したと報道されている。中印間での衝突の拡大の危険は抑え込まれたと思われる。

 しかし、今回の事件が今後の中印関係に与える影響は大きいように思われる。インドの著名なTVジャーナリストBarkha Duttは、6月17日付けワシントン・ポスト紙掲載の論説‘A deadly border clash should end India’s delusions about China’において、「今日、パキスタンは事実上中国の従属国であることを忘れてはいけない。中国はインドでの最悪のテロ攻撃のあと、パキスタンを擁護し、ジャマート・ウド・ダワのようなグループに国際制裁を課すことを阻止した」と指摘、今回の件が与える教訓は、中国がインドにとり脅威であることを忘れるべきでないということである、と指摘している。Duttの指摘はその通りであり、インドに対する中国の脅威のインドでの認識は強まっていくだろう。

 また、Duttは同論説で、「中国はインドの経済と市場で役割を得て、浸透している。インドの対中貿易赤字は530億ドルである。これは中国帝国主義である。中国にインドの市場と消費者に制限されないアクセスを与えることは自殺行為である。米経済を‘中国から切り離す’話があるが、インドも共鳴すべきである」として、経済関係における対中依存を少なくする方向に向かうべしと論じている。こうした議論も、多くのインド人にとって受け入れやすい議論のように思われる。そのことがRCEP(東アジア地域包括的経済連携)交渉に与える影響は大きいと思われる。インドは昨年11月にRCEPへの不参加を表明しているが、今回の件で、インドが交渉に復帰する可能性はますます遠のいたと見られる。

 最近、中国との経済関係縮小の動きがあちこちで出てきている。中国は各地で問題を次々と起こしている。香港に関する動きに関連して、最後の香港総督クリストファー・パッテンは、中国を「敵」とみなすべきであると主張している。豪州は、新型コロナウイルスの起源の調査を主張した後、中国から経済制裁を受けている。米国の中国批判も強い。こういう動きは、今後の中国経済の発展を抑える方向でいずれ作用してくるだろう。また一帯一路の債権はコロナウイルスの経済下押し効果が世界に広がる中、不良債権化すると思われる。中国はこうした動きをあまり甘く考えないほうが良いように思われる。

 また、中国の中印国境での振る舞いは、尖閣諸島問題での中国の出方を占う上でも、日本も関心を寄せておくべきであろう。

  
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