世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年12月22日

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 バイデン次期政権は、イラン核合意への復帰を柱として、イランとの再関与を目指している。トランプ政権は「最大限の圧力」で、イランを交渉の場に引き出すこととイランの体制を変更することを目指したが、いずれも失敗した。バイデンはこれを巻き戻して核合意の復活など外交重視で臨もうとしているが、容易ではないように思われる。

shellexx / iStock / Getty Images Plus

 一つの大きな要因は、イランの核科学者のトップであるファクリザデの殺害である。この事件は、恐らくイスラエルが実行したものと見られるが(トランプ政権の意向にも合致)、そのこと自体が米国のイラン再関与を極めて困難にしているとともに、ドローンによる殺害という手段にも注目すべきであろう。

 フィナンシャル・タイムズ紙コラムストのデイヴィッド・ガードナーの12月3日付け論説‘Re engaging with Iran will not be a simple matter for the US’は、中東では戦争の性質が変わり、民兵が主力になるとともに、ドローンと精密ミサイルによる攻撃が中心になってきていると述べ、イランがこのような新しい戦争を得意としていると述べている。これは重要な指摘である。

 特に注目すべきは、精密ミサイルによる攻撃である。昨年9月、イランはサウジアラムコのアブカイク製油施設をドローンと精密ミサイルを使って攻撃し、大きな損害を与えた。

 これまではイランの攻撃能力については核が最重要視され、イランの核武装を防ぐためのイラン核合意に関心が集められた。バイデンは9月CNNの公式ウェブサイトに公開された文章の中で、「トランプ大統領はイラン核合意を離脱するという誤りを犯した」、トランプ政権の対イラン政策は失敗だったと指摘し、核合意が対イラン政策でいかに重要であるかを強調している。イランの核科学者ファクリザデの暗殺で、その核合意の復活が難しくなったが、実は、今や問題としてイランの核に加え精密ミサイルも重みを増している。

 ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストのトマス・フリードマンも、11月29日付コラム‘Dear Joe, It’s Not About Iran’s Nukes Anymore’で、「中東は変わった。それを一番象徴するのが昨年9月のイランによるサウジの最も重要な油田かつ石油精製施設であるアブカイクに対するイランのドローンと精密ミサイルによる攻撃で、これはいわば中東における『真珠湾攻撃』であった」と述べている。フリードマンは、また、「精密ミサイルはイランの新しい重要兵器で、イランはこれをレバノン、イエメン、シリア、イラクの代理人に売ろうとしている」と指摘している。

 つまり、バイデンにとって、イラン政策の最重要課題は今や核武装の阻止に加え、イランの精密ミサイルにどう対処するか、特に、近隣の代理人国家への売却をどう阻止するかになっていると言える。そして、これは容易なことではない。バイデンの中東政策においてイランにどう対処するかは最も重要な課題であり、サウジアラビアやイスラエルといった同盟国と緊密な連絡を取りながら、対処ぶりを模索していくこととなる。

  
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