世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年12月9日

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 11月22日、サウジアラビア西岸の町ネオムで、イスラエルのネタニヤフ首相、サウジのムハンマド皇太子、米国のポンペオ国務長官が極秘裏に会談を行った。イスラエルの情報機関モサドのコーエン長官も同席した。サウジのファイサル外相は会談を否定しているが、イスラエルのメディアは会談を報じており、イスラエル政府の情報関係者が確認しているので、会談が行われたことは事実と見てよい。サウジとイスラエルの国交樹立について協議されたとの観測がある。

MikhailMishchenko / MikhailMishchenko / iStock / Getty Images Plus

 それに先立ち、9月15日、ホワイトハウスでトランプ大統領立会いの下、ネタニヤフ首相、バーレーンのザヤーニ外相、UAEのザイード外相が、いわゆる「アブラハム合意」に署名した。これはイスラエルと湾岸アラブ2か国の和平合意で、これにより国交正常化、経済・技術協力が可能となった。それまでイスラエルと国交を結んでいたのはエジプトとヨルダンのみであったが、ここにきて湾岸のアラブ諸国がこれまで対立してきたイスラエルと国交を結んだことになる。

 その背景として考えられるのがイランの脅威である。イスラエルにとってイランは国の存続にかかわる脅威であり、湾岸アラブ諸国もイランの軍事的脅威を受けてきたが、特にショックであったのは2015年のイラン核合意であったらしい。イラン核合意はイランの核開発を抑えるものではあったが、米国がイランと手を握ったことにイスラエルと湾岸アラブ諸国はショックを受けたようである。湾岸アラブ諸国は、イランの核武装から守ってくれる相手を米国からイスラエルに変えた。

 このタイミングでイスラエルと湾岸アラブ諸国との提携が行われたのはバイデン政権に対する警戒感のためと考えられる。トランプがイラン核合意から離脱したのに対し、バイデンは核合意への復帰を明言している。また、バイデンは、イスラエルの入植地政策を批判し、パレスチナ支援の拡大を謳っている。さらに、カショギ事件(2018年10月にトルコのサウジ総領事館でサウジ人ジャーナリストのカショギ氏が殺害された)もあり、バイデンは、米国とサウジとの関係の見直しにも言及している。最近の動きの背景にはバイデン政権の中東政策への警戒感があるものと考えられる。

 アラブ諸国の中でもサウジアラビアは、「イスラムの2大聖地の保護者」をもって自らを任じ、パレスチナ支援を重視してきた。それがムハンマド皇太子になって変わってきている。皇太子はパレスチナ問題をさほど重視していない節がある。その上、対イラン強硬派である。サウジのイスラエルとの国交正常化が実現すれば画期的なことであるが、その後ろにはムハンマド皇太子の登場があると言ってよい。

 バイデン政権がこのような動きにどう対処するかが注目される。バイデンはイスラエル、サウジとの関係を特に重視したトランプとは異なる中東政策を打ち出すことは明らかである。その一方で、イスラエルとの国交を樹立したバーレーン、UAE、それに、その可能性があるサウジと対決することなく、現実的外交を進めるのではないかと思われる。

  
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