2024年12月2日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年10月12日

 世界が脱炭素社会に向かって大きく歩み始めている中、大手石油会社はどのように生き残って行くのか。9月に英国の石油大手BPが発表したレポートは、石油に対する世界の需要はここ数年でピークに達し、新型コロナで減った消費は回復しないのではないか、と分析している。この発表は、大きな話題となった。

Yakobchuk / iStock / Getty Images Plus

 9月18日付けのフィナンシャル・タイムズ紙社説‘The slow death of Big Oil(大手石油会社はゆっくり死んでいく)’は、石油大手が生存していくためには、クリーンエネルギーの生産に取り組み、石油、天然ガスへの依存を低めていかなければならない、と述べている。

 世界の関心は気候変動に向けられている。世界では、アマゾンの森林の大規模火災、米国西部の山火事、ドイツやチェコなど欧州での異常猛暑、日本での大型台風の重なる来襲など、気候変動の現象が増加している。世界気象機関の発表によれば、今夏(6-8月)の世界の平均気温は観測史上最高となった。英国の科学者は、海面が従来の予測の2倍上昇していると述べている。

 その中で気候変動に対する対策が次々に打ち出されており、9月17日欧州委員会はEUの温室効果ガス排出を2030年までに1990年比で少なくとも55%を削減する計画を発表した。

 このような状況のなかでBPは、今後10年で石油、天然ガスの生産を4割減らす計画とのことである。フィナンシャル・タイムズの9月13日付けの別の記事によれば、BPのルーニー会長はその間再生可能エネルギーへの投資を10倍にし、投資全額の3分の1を再生可能エネルギーに向けると述べている。これはまさにBPの変身である。今の形の大手石油会社の死であるが、大手石油会社の生まれ変わりである。

 このところ、大手石油会社では株主が気候変動対策を要求する現象が起きている。米国のエクソン・モービルでは、2017年の株主総会で、ニューヨーク年金基金の管理者が同社が直面する気候変動リスクを開示するよう株主提案し、62.3%の賛成を得たと報じられている。またBPの株主総会では「パリ協定の目標に沿った事業計画の実施を同社が実証すること」との株主提案が行われ、99%以上の賛成で認められたとのことである。このような株主の提案は、大手石油会社にとって気候変動は避けて通れない問題で正面から取り組む必要があることを別の面から示しているものである。

 脱炭素世界への移行は、産油国にも大きな影響を与えることになる。BPは今後10年で石油、天然ガスの生産を4割減らす計画とのことであるが、それは直接産油国の生産に影響を与える。今のところ、産油国は、例えばサウジがCO2の排出の削減に取り組んでいる程度の対策に留まっているようであるが、石油消費国での脱石油の動きが本格化すれば、産油国としても生産を根本的にどう調整するかといった深刻な問題に直面することとなるだろう。

  
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