2024年12月4日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年10月5日

 イスラエルとアラブ首長国連邦およびバーレーンとの国交正常化合意は、パレスチナにとり敗北であり、新たに直面する厳しい現実である。この問題につき、フィナンシャル・タイムズ紙の9月22日付け社説‘Palestinians face a new reality: Fresh leadership is needed after Israels deal with UAE’は、国交正常化合意の背景にイスラエルの強硬姿勢や入植政策、アラブの変化(湾岸諸国は数年前にイスラエルを生存上の敵国とみることを止め、パレスチナの正義を最優先事項と考えることを止めた)やトランプ政権の政策(イランの脅威をイスラエルと共有)があることに言及しつつも、パレスチナ側にも責任があるという。具体的には、ファタハとハマスの内部対立、パレスチナ自治政府(PA)内の汚職、和平への硬直的な姿勢、アッバス政権の長期化と長年に亘る選挙の欠如などである。そして、パレスチナ問題の「公平な解決」のためにも、先ずPA指導部の選挙をすべきだと提案する。いずれも妥当な、重要な意見である。

Anton Litvintsev / iStock / Getty Images Plus

 アッバス議長の後任は難問だろう。アッバスはアラファト後の難しい時代を担ってきたが、和平問題はパレスチナにとりジリ貧の時代になってしまった。もう若い世代に代わるべきということであろう。エラカートPLO執行委員会事務局長(1955年生まれ)等の世代になるか、もっと若い世代になるのか、内情はよくは分からない。

 問題の困難さ、米国などを含む問題の複雑さがあるのは勿論だが、パレスチナが未だに和平を達成できていないのは残念なことである。全ての責任をパレスチナに負わせることはできないが、パレスチナ側の非妥協的な、硬直した姿勢には大きな問題がある。よくパレスチナは和平の「機会をミスすることをミスしない」と言われる。頑張れば頑張るほど分が悪くなっている。パレスチナの立場が最も強かったのは90年代初めから2000年のクリントン仲介によるキャンプ・デービッド会談迄だったのではないか。

 なお、上記のフィナンシャル・タイムズ社説は、パレスチナ和平の最終目標につき、二国解決であろうと一国解決であろうと、「公平な解決」が必要だと言う。これは、やや不審である。フィナンシャル・タイムズはパレスチナ国家樹立ではなく高度の自治を考えているのだろうか。この一国解決が永続する解決のようには思えない。大イスラエル国家内で紛争が永続するのではないか。またイスラエルはユダヤ国家を維持できなくなるのではないか(出生率が違う)。基本的には依然何らかの二国解決以外に永続的な解決はないように思う。

 いずれにせよ、パレスチナが置き去りになることは中東の安定にとり良くないことである。パレスチナも、もっとサウジ等アラブの国と接触、連携すべきであろう。パレスチナ単独で問題は解決できないし、支援も必要だ。中東ではアラブの国がナショナルなアイデンティティと願望を強め、昔のようなアラブの正義の時代は変わろうとしている。パレスチナはこの新たな現実を直視すべきであり、機会を逃してはならない。手を打たないと置き去りにされてしまう。

  
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