2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2012年8月24日

 エネルギー安全保障とは、「手ごろな価格で十分な供給を手に入れられること」だが、それにはいくつかの側面がある、と著者はいう。

 第一に、物的安全保障(資産、インフラ、サプライチェーン、交易路を護ること、必要とあれば迅速に代替・代用できるよう備えておくこと)。第二に、エネルギーへのアクセス(エネルギー供給を開発し、契約で保証され、採算のとれるやり方で実物を得る)。第三に、エネルギー安全保障がひとつの体系であること(供給の着実な流れの維持に役立ち、供給途絶、秩序の崩壊、非常事態に協調して対応するための国際機構や国家政策によって成り立つシステム)。最終的に重要なのが、長期的な性格の投資(充分な供給を確保し、将来的にインフラを適切なタイミングで利用できるようにするための投資と開発を促進するような、政治・ビジネス環境)という側面である。

エネルギー安全保障の試金石となった
チャーチルの言葉

 非常に複雑な要素がからみあっていて、「首尾一貫した“エネルギー政策”を固めるのは、容易ではない」ものの、「未来に決断を下すのに役に立つ原則がたしかにあることを、歴史が示している」と、著者は語る。

 まずは、世界経済が依存しているエネルギー基盤の規模、複雑さ、重要性を認識すること。そして、「エネルギー・オプションの範囲をひろげること」という。

 著者は、エネルギー安全保障の試金石となる言葉として、ウィンストン・チャーチルが1913年に議会で述べた格言を紹介する。

 「ひとつの品質、ひとつの家庭、ひとつの国、ひとつの道すじ、ひとつの分野に依存することは、あってはならない。石油の安全と確実性は、多様さにのみ存在する」。

 この有名な格言が、「石油」を「エネルギー」に置き換えて、その後くりかえし実証されてきたことは、本書に詳述されている。「リスクのないオプションなどなく、リスクはさまざまな形で現れる」のである。

世界的な権威によるエネルギー問題の教科書

 著者ダニエル・ヤーギンは、ケンブリッジ・エナジー・リサーチ・アソシエーツ会長で、エネルギー問題の世界的な権威である。『石油の世紀』でピュリツァー賞を受賞した。


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