「正論」VS.「陰謀論」
次にトランプ大統領は、バイデン氏、民主党知事及び市長に対して、経済と学校を再開しない「悪者」のレッテルを貼りました。彼らは経済再開と人の移動に慎重な姿勢を示し、マスク着用並びにソーシャルディスタンスの重要性を主張しました。
ただ、個人事業主及び生活困窮者にとって民主党の議論は単なる「正論」でしかなかったのです。死活問題に直面している有権者は正論よりも、明日の生活保障が急務だったのです。
トランプ大統領は経済再開を急がなければ、自殺者及び心の病になる人が増加すると警告を発しました。確かに現実的な議論をしていました。
さらに、民主党は11月の大統領選挙で勝てないので、新型コロナウイルスを「政治利用」していると、トランプ氏は痛烈に批判しました。選挙戦が激しくなると、新型コロナウイルスは、経済を悪化させてトランプ再選を阻止するための民主党急進左派による陰謀論であると示唆しました。
この陰謀論は一定の効果を発揮したといえます。というのは、分断した米社会では国民が懐疑的になっているからです。実際、トランプ支持者の中には新型コロナウイルスを脅威として捉えていないどころか、その存在すら信じていない者がいました。
要するに、トランプ大統領は選挙期間中、民主党の攻撃を封じ込めるために陰謀論の浸透に時間とエネルギーを費やしていたのです。米国史上最高の約8100万票を獲得したバイデン氏には及ばなかったものの、トランプ氏は正論よりも陰謀論を信じた有権者の票を確実に獲得しました。
「トランプ待望論」
各州の選挙人が12月14日、投票を行いバイデン氏が正式に第46代米大統領に就任することが確定しました。それにも関わらず、トランプ氏は14日以降も自身のツイッターに「もう1つの真実」を投稿しています。
例えば、「ミシガン州の投票機においてエラーが68%発生した」「ネバダ州で市民権がない何千人もの人たちが投票を行っていたことが判明した。彼らには全く投票権がない!」などと、つぶやきました。選挙結果に関して真実とは異なる「もう1つの真実」を作り、支持者の認識を意図的に操作しているのです。
米公共ラジオ(NPR)、公共放送(PBS)及びマリスト大学(東部ニューヨーク州)が行った共同世論調査(20年12月1~6日実施)によれば、「2024年の大統領選挙にドナルド・トランプ大統領に出馬してもらいたいか」という質問に対して、67%の共和党支持者が「はい」、25%が「いいえ」と回答しまいた。確かに共和党支持者の間には、24年大統領選挙において「トランプ待望論」があります。
ただ、4分の1の共和党支持者はトランプ氏の24年大統領選出馬に否定的である点も看過できません。今後、この数字が増加していけば、トランプ氏の共和党における影響力は徐々に低下していくことは間違いありません。