2022年12月4日(日)

中東を読み解く

2020年12月26日

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イランに歯向かう民兵も

 ペルシャ湾への軍事力投入は米国だけではない。イランの宿敵であるイスラエルも今月、潜水艦をスエズ運河、紅海経由でペルシャ湾に向かわせた。スエズ運河を通過する際には、ことさら船体をさらし、イランに対する示威行動をあからさまにした。

 イランは米国やイスラエルの新たな軍事力増強や挑発に乗らないよう引き締めを図っているが、頭が痛いのはイラクのイラン支援民兵の中に歯向かう組織が出てきていることだ。地元メディアなどで伝えられたところによると、暗殺されたソレイマニ司令官の後任のガーニ司令官が先月、イラクを秘密訪問し、シーア派民兵組織に対し、当面の間、米公館や米軍に対する攻撃を中止するよう指示した。

 しかし、その後、強力な民兵の1つである「アサイブ・アルハク」の指導者は「イランの意向には縛られない。イランには服従しない」などとイランへ反旗を翻しているという。来年6月のイラク総選挙への政治的な思惑やシーア派民兵間の勢力争いが理由と見られるが、配下の民兵の統制が効かなくなっているのはイランにとっては大きな問題だ。

 今回のバグダッドの米大使館への攻撃が同組織によるものかどうかは明らかではない。だが、トランプ大統領の警告通り、今後、民兵の攻撃で米国人が犠牲になるようなことが起きれば、イラン本土が米国の報復攻撃にさらされかねない。イラン側に多大な損害が出れば、国内で強硬論が強まり、米艦船や米軍基地を攻撃せざるを得ない状況に追い込まれる恐れが十分にある。バイデン次期政権との交渉に賭けるロウハニ政権にとっては最も避けたいシナリオだろう。

 しかし、イラン側も米国とイスラエルによる核施設への攻撃という最悪のケースを想定し、対応しつつあるのは事実。中部ナタンズにあるイラン中枢の核施設が7月に爆破された後、イラン原子力庁は「破壊された建物は山中で再建する」と発表し、その一部は爆撃で被害を受けにくい地下施設に既に移されたようだ。ニューヨーク・タイムズはこのほど、ナタンズ南方の山中にイランが建設したという新しいトンネルの入り口の写真を掲載している。

 ロウハニ政権が1月20日の米大統領交代までの「攻撃を受ける最も危険な期間」を何事もなくやり過ごしたとしても、バイデン氏が核合意の復帰交渉にすんなり応じる可能性は小さい。核合意の条項をより厳しいものにするよう求めた上、弾道ミサイルの開発規制や中東地域の過激派に対する支援の停止などの新たな要求を突き付けてくるかもしれない。

 保守派支配のイラン国会はウラン濃縮活動の拡大や国際原子力機関(IAEA)の査察制限などを政府に義務付ける法案を可決しており、ロウハニ師は今後も綱渡りの政権運営を強いられることになるだろう。6月には大統領選挙が控えており、展開次第では、イランに再び強硬派大統領が生まれかねない。そうなれば、制裁解除は夢と消えてしまうだろう。

  
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