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2021年2月16日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

利権となる許認可権

 業者はまず、コネを使って当局の担当者に近づく。そして担当者を接待しては賄賂を渡す。グエンさんの会社は、免許を得るまでに「日本円で1000万円以上は使った」という。官僚が認可権を利権にして、私服を肥やしているのである。

 認可権を握る官僚から賄賂を受け取るなど、日本で発覚すれば大問題となる。だが、ベトナムでは「常識」なのだ。

 接待や賄賂は、認可が取れて終わりではない。当局とのコネを維持するため、年に何度も接待しては賄賂を渡し続ける。グエンさんによれば、1回の額は「5万〜10万円」程度だという。しかも相手は1人ではなく、何人もの官僚に渡す必要がある。

 官僚には、正規の月収以上の賄賂が接待のたびに手に入る。そして接待してくれる業者は、かなりの数に上る。官僚にとって、どれほど大きな利権であるかわかってもらえるだろう。

 官僚とのコネは、誰もが持てるわけではない。そのため実習生の送り出しには、ベトナムの特権階級が関与するケースも多い。グエンさんが続ける。

 「名前は出せませんが、(ベトナムで一党支配体制を敷く)共産党幹部の家族や親戚が、業者の運営に関わっているケースも多いのです」

 業者が実習生から徴収する手数料は、特権階級の「財布」にもなっているというのだ。これでは、政府が定める手数料の上限など守られるはずもない。

 日本への実習生の送り出しは、ベトナムでは「一大産業」だ。約22万人のベトナム人実習生が1人100万円の手数料を支払っていれば、総額で2200億円に上る。GDPの規模が日本の20分の1程度というベトナムでは、極めて大きなものである。しかも実習生以外にも、留学生も同様に送り出し業者に手数料を払って来日する。

 その後、実習生や留学生たちは日本で借金返済のための肉体労働に明け暮れる。そうやって借金を返済しながら、母国の家族へ仕送りを始める。

 在日ベトナム人の数は昨年6月末時点で約42万に上っていた。その多くが実習生もしくは留学生として来日し、母国へと金を送っている。1人が年100万円を送金していれば4200億円、年10万円でも420億円だ。彼らの送金は、ベトナム経済にとっては欠かせない外貨収入である。こうした経済事情もあって、ベトナムは11月以降だけで、実習生を中心に約5万6000人もの自国民を日本へ送り込んだ。

 その一方で、実習生たちが借金漬けで来日するシステムは全く改まる気配がない。実習制度のルール違反なのだから、本来であれば日本からベトナムに対し、実態を改めるよう強く要求すべき問題だ。しかし、そんな気配は全くない。

 実は、実習生が借金して送り出し業者に支払う手数料に群がるのは、ベトナムの腐敗官僚だけではない。日本側の受け入れ関係者の利権にもなっていることが疑われる

  
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