「日本の新聞やテレビの報道は横並びに過ぎる」という指摘は久しくなされてきた批判だが、政府が9月14日に発表した「革新的エネルギー・環境戦略」の新聞各紙の報道ぶりは、社説を中心にそれぞれが異なる主張を展開し、各新聞社のスタンスがうかがえる興味深い内容となった。
原発ゼロを支持する朝日、毎日、東京
批判的な日経、読売、産経
政府が打ち出した新たなエネルギー戦略は「原発稼働を2030年代にゼロにする」との目標を掲げた内容だったが、各紙の主張は大別すると「原発ゼロ」を支持するか否かで2つの陣営に分かれ、各陣営の中でも微妙にスタンスが異なっていた。実際に都内で入手できる新聞6紙を比較してみた。原発ゼロを支持・主張しているのは朝日、毎日、東京の各紙。これに批判的な立場は日経、読売、産経のグループだ。今回の報道は、政府の発表を受けた「発表もの」であり、いわゆる「特ダネ競争」ではない。各紙が同時に同じ内容を報じているのだが、それだけにそれぞれの着眼点や主張の違いが注目されることになる。
反原発の筆頭ともいえる朝日新聞は社説で「原発ゼロを確かなものに」と主張。東京新聞は「もっと早く原発ゼロへ」、毎日新聞は「実現への覚悟を持とう」と見出しをつけた。朝日は特に一面の編集委員の署名記事の中で「日本のエネルギー政策が初めて民意によって動いた」と指摘し、「(脱原発を求める社会の)流れはもう変えられない」とまで言い切った。毎日も「従来の原発拡大路線を180度転換させる意義は大きい」と社説で持ち上げた。
一方、読売新聞は「原発ゼロは戦略に値しない。経済・雇用への打撃軽視するな」と見出しをつけた社説を大きく展開した。産経新聞はもう1歩踏み込んで「現実を直視せず、十分な検討も経ることなくまとめられた『空論』というほかない」と断じ、即時撤回を求めた。日本経済新聞は「国益を損なう『原発ゼロ』には異議がある」として粗雑な政策の決定過程や内容の矛盾を突いた。原発ゼロを批判する陣営に共通しているのは、政府・民主党が次期衆院選を前に有権者の歓心を買うことのみに執着して性急に作り上げた打算の産物という視点だ。
実はこうしたメディア報道における主張の違いは、今回の政策発表だけに現れていたものではない。ここに至るまで、これまでも原発事故への評価や脱原発による経済界への影響、政府の姿勢に各紙が取ってきた「ポジション」(立場)は異なっていた。一例を挙げれば朝日は昨年の3・11直後から反原発の姿勢を鮮明にしていたし、読売は原発の必要性を早くから主張していた。
論調を二分した原発問題
増税については横並びの主張だったが…
なぜメディアの論調は原発反対と活用維持と鮮明に二分されるのか。理由はいくつかあろうが、その一つは、政策自体に矛盾や欠陥が内在しているからだろうし、もう一つは、人々の共感の度合いの違い、メディアが持つ歴史的なスタンス、そして論説の決まり方などが原因ではないかと推察する。