2月13日、マリオ・ドラギ(前欧州中央銀行総裁)が、広範な支持を得てイタリアの新首相に就任した。ドラギ支持を拒否して野党にとどまった主要政党は右翼の「イタリアの同胞」のみであり、形の上では挙国一致の内閣となった。
ドラギは、中道左派の民主党、イタリア・ヴィヴァ、その他の小党の支持を得た他、このところ現実的な中道右派を称しているシルヴィオ・ベルルスコーニ元首相のフォルツァ・イタリアの支持も獲得した。「五つ星運動」も彼を支持することとしたが、この党は政権を経験して変容し、2,3年前のポピュリスト政党から穏健で親欧州の政党に変わったと自称している。マッテオ・サルヴィーニ前内相が率いる右翼政党「同盟」の支持も得た。「同盟」は典型的な反EUのポピュリスト政党というイメージが強いが、同党には北部が地盤のビジネスの利益を中核とする影響力の小さくない穏健派が存在する。彼等穏健派は政権に入ることによってEUの復興基金のイタリアの取り分を如何に使うかの決定に関与出来るとしてドラギ支持をサルヴィーニに説いたらしい。
25名の閣僚のうち、15名が政治家、10名がテクノクラートである。経済財政相には中央銀行上級副総裁のダニエレ・フランコが起用された。
ドラギは、2011年から2013年に債務危機の最中に首相を務め国民に緊縮政策を強いる役回りとなったマリオ・モンティよりも幸運だとは言えるのかも知れない。ドラギはEUの復興基金による大きな財源を使って経済の再生を実現する役回りである。しかし、その資金は「フリーランチ」ではない。彼には何十年もの間の宿題である改革(例えば投資意欲を削ぐ旧態依然として非効率的な官僚組織や司法制度)を並行して進めることが求められている。
ドラギは、税制、やる気を喪失させる官僚組織、緩慢で予測不能な民事司法制度などを改革の対象に挙げているようである。しかし、これらの改革は年単位の問題である。ところが、EUが想定する復興基金の支出は短期決戦型であり(復興基金の資金は2022年末までにその70%を、残りは2023年中にコミットされるべきものとされている)、改革を並行して進めるとは言うが、両者をどうやって両立させるかが問題となろう。更には、ドラギが何時まで首相を務めるのかにも関連する。前回の議会選挙は2018年3月だったので、遅くとも2023年早くに次回選挙となるが、早まるかも知れない。つまり、無理な注文かも知れないが、ドラギには改革の路線をできるだけ早く敷いてしまうことが求められよう。
当面、ドラギは相互に異質な諸政党の間のコンセンサスを得て復興計画を取り纏め、4月末までに欧州委員会に提出せねばならない。EUの復興基金はその40%をイタリアとスペインの両国に配分することになるので、両国がどう活用出来るかが、復興基金の成否を左右することになろう。復興計画の準備状況はスペインがイタリアに先行しているらしい。課題はそれだけではない。コロナウイルスを抑え込むことに成功しなければ、ドラギ政権は出鼻を挫かれ、復興と改革の努力は著しく制約されることとなろう。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。