世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年4月20日

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 ブラジルのボルソナーロ大統領は3月29日、アセベド国防大臣を解任した。かねてより、軍を私物化し国内政治に利用ようとする大統領と、国防大臣との間には軋轢があった。昨年5月、新型コロナウイルス対策よりも経済を重視するボルソナーロは、経済活動を規制する州知事に対して、軍を動員してもこれを阻止すると脅かした際、アセベドは、「軍は、法と秩序、民主主義の側にいる」との声明を発表した。

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 ブラジルでは、昨年の半ばには、死亡者数も減り始め、コロナ対策としての貧困層に対する支援金支給や経済成長率の回復などにより、ボルソナーロの支持率も上昇の傾向にあったが、11月以降感染率が再び上昇し始め、今年2月以降感染者数、死亡者数が第1波を上回る状況となった。これは、ブラジル変異型ウイルスによる影響とボルソナーロ政権がワクチン確保の努力をしなかったことによる。

 このような状況において、大統領支持率の低下、議会では大統領弾劾の動き、そしてルーラ元大統領に対する有罪判決を無効とする最高裁判断が出るなど、ボルソナーロの再選戦略に狂いが生じたことが、国防大臣更迭を含む今回の大幅内閣改造に踏み切る背景となった。

 ボルソナーロは、議会上院でワクチン確保の失敗を譴責された外相に責任を押し付けて更迭し、軍の役割をわきまえる国防相を解任し、自分に忠実な元軍人の官房長官を横滑りさせ、その後任に大統領府長官を、更にその後任に中道派議員を起用した。また、大統領の意向に抵抗した検事総長を退任させ、法相を横滑りさせて、法相の後任にボルソナーロ家に近くその就任に議論のあった連邦警察長官を起用する等露骨に体制を固めた。中道派政党に閣僚級のポストを渡したことは、大統領弾劾の動きを阻止するための議会工作と言える。

 他方、国防相の更迭に抗議して3軍の司令官が辞職したことは計算外であったであろう。これはボルソナーロに対する強烈な牽制とはなったが、逆に、後任者に自分により忠実な人材を任命する機会ともなる恐れもある。来年の選挙が昨年の米国大統領選のような混乱した状態になる場合に、支持者を煽って米議事堂襲撃事件のブラジル版を引き起こす可能性や軍を動員する可能性も高まったと言える。ワシントン・ポスト紙の4月2日付社説‘Brazil’s Bolsonaro failed to stop covid-19. Now he may be targeting’は、ボルソナーロが軍事独裁の方向に踏み出す可能性を懸念しているが、この懸念は尤もである。

 前回選挙でボルソナーロを支持した中産階級やキリスト教福音派などの右派の岩盤支持層に加え、日々の収入に頼る貧困層もロックダウンに反対である。直近の世論調査では、支持率でルーラがボルソナーロを上回っているが、今後のワクチン接種の状況やコロナ感染の動向次第では、ボルソナーロが支持率を回復する可能性もあろう。ルーラ元大統領に対する最高裁の判断も、原判決の裁判所の管轄権に問題があったとするもので、無罪であるとした訳ではなく、裁判のやり直しが行われるが、来年の選挙までに判決が出る可能性は低いとされている。

 米国においては、トランプに対するバイデンの存在があった。ルーラについては左派や貧困層を中心に国民的人気は相対的に高いが、汚職疑惑の問題もあり、コロナ下に苦しむ経済の再生という課題に対応できるのか、議会で多数派を形成できるかといった問題もあり、ブラジルのバイデンになれるかには疑問がある。

  
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