3月26日、メルコスール(南米南部共同市場)は設立30周年を迎えた。同日オンラインで開催されたメルコスール首脳会議では、メルコスールに柔軟性を求めるウルグアイのラカジェ・ポウ大統領とアルゼンチンのフェルナンデス大統領が公開の画面で正面衝突する事態になった。ウルグアイ大統領が「柔軟性」について他の加盟国にとり重荷とならないようにその定義を議論したいとしたのに対し、アルゼンチン大統領は、アルゼンチンが重荷だと思うのであれば、メルコスールを脱退してもらっても良いとの趣旨を述べ、辛辣なやり取りが行われた。
関税同盟であるメルコスールでは、加盟国が第3国とFTAを締結する場合には、他の加盟国の承認が必要とされており、自由に他の国と二国間のFTAを締結したいウルグアイ等とこれを認めないアルゼンチンとの間で対立が続いていた。ウルグアイの主張の背景には、メルコスールが貿易拡大効果を持たないのであれば、域外国とFTAを自由に結びたいとの国内的圧力があるが、これはメルコスールを関税同盟から通常の多国間FTAに変質させるものとなる。
今回の首脳会議の主催国はアルゼンチンであったが、オンラインによる公開討議では、首脳は自国内を意識して発言することになるので、基本的に対立するような問題があるときに、このような形式の会議を行ったこと自体が拙劣な外交であるとの印象を受ける。
メルコスールは市場統合を目指す関税同盟として発足したが、自動車やその部品、砂糖といった重要産品が適用除外とされ、国ごとに100を超える例外品目があるなど不完全な状態にあり、また、高い関税等により国内産業を保護し手厚い労働者保護政策等もあって外国投資も伸びず、工業製品では輸出競争力を失ってしまっている。
ボルソナーロのブラジルを含めウルグアイ、パラグアイは、関税を引き下げ、市場の開放を進めたいわけであるが、保護主義に頼るアルゼンチンはこれらの点にも反対している。
このような状況で2019年6月に大筋合意されたEUとのFTAがメルコスール経済活性化の特効薬ともなることが期待されたが、EU側には、オーストリア、ベルギー、アイルランド、オランダの議会が反対を表明する等国内に反対論があり、他方でボルソナーロのアマゾン熱帯雨林の破壊などの環境政策が障害となり、批准の見通しは全く立っていない。双方の主要国の大統領選挙が終わること、そしてブラジルの環境政策の転換が必要であろう。
日本にとってメルコスールとの経済関係緊密化の余地は大きく、経済界からも日・メルコスールEPAへの希望も表明されていたが、2019年以降ほとんど進展していない。カナダ、韓国、シンガポールなどはメルコスールとのFTA交渉を継続しており、EUとの協定発効の目途が立たない一方で経済的停滞に直面しているメルコスールとの間で、我が国としてもEPA交渉の可能性について改めて検討しても良いのではないだろうか。
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