ラテンアメリカ諸国の多くが、今年から来年にかけて5Gシステムの構築のための設備等につき入札が行われる予定となっており、価格面ではファーウェイが欧米企業よりも優位に立っている。
これに関して、サンパウロ在住のドイツ系ブラジル人政治学者のオリヴァー・ストゥンケルが、5Gシステムへのファーウェイ導入をめぐりラテンアメリカ諸国が米国と中国のいずれかの側につかざるを得ず、同様の状況が他の技術分野にも及び、その結果ラテンメリカが長期的に分断される懸念がある旨、2月26日付のForeign Policy誌で述べている。
ファーウェイは、既に2000年代からラテンアメリカに進出しており、携帯電話市場では、ペルー、チリ、コロンビアで20%前後のシェアを有している実績もある。5Gは、単なる携帯電話の高速化、大容量化だけではなく、情報通信や位置情報のみならず交通、流通、製造プロセスから日常生活に至るまでのIT化をもたらし、社会・経済活動のあらゆる面の把握や制御が可能となることが予想されている。ファーウェイ等の中国企業は中国共産党の手先であるとの強い疑いを持つ米国としては、米国の裏庭と言われるラテンアメリカがそのような形で中国の影響下に入ることは許容し難いことであろう。
他方、ラテンアメリカ諸国は、貿易・投資面では、既に多くの場合、中国への依存が進んでしまっており、更に、新型コロナウイルス対策で中国のワクチンに頼り、重大な経済的困難に陥っている状況において、米国の圧力によって中国との関係を悪化させるわけにもいかず、ストゥンケルの記事が指摘するような板挟み状態になっているわけである。
ストゥンケルの記事によると、中国は今やブラジルの輸出の約3分の1を占めるまでになり、第2位の米国は約10%に過ぎない。チリ、ペルー、ウルグアイにとっては中国は最も重要な貿易相手国である。メキシコは、米国が最大の貿易相手国であることに変わりはないが、今回、中国は大量のCOVID-19ワクチン供給を約束するなど接近を図っている。ラテンアメリカ諸国に対して、中国の「ワクチン外交」は功を奏しているらしい。
ラテンアメリカは地域としての一体性が強く、中国としても地域全体を制覇しようとの狙いがあるようにも感じられる。米国としては中国の一貫した官民一体となった取り組みの脅威に気付くのが遅すぎたと言える。
5Gをめぐる選択は、将来の地域の経済・社会的発展に関する中国の支配的影響力を認めるか、中南米の技術分野での分断を招くかの選択であるので、米国としても譲歩はできないであろう。抜本的な解決は、米中が直接協議して米国の懸念が払拭されるような合意が成立することであるが、そのような解決は困難であり、ストゥンケルが懸念するある程度の分断は避けられないのではないだろうか。
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