ラテンアメリカでは、バイデン政権の発足を受け、バイデンへの支持や米国への期待が高まっている。Foreign Policy誌(電子版)に2月19日付けで掲載された論説‘In Latin America, U.S. Popularity Is Already Bouncing Back’(筆者はウッドロー・ウイルソン・センターでラテンアメリカプログラムを担当している元NSC南米担当のベンジャミン・ゲダン)によれば、最新の世論調査では、メキシコ人の66%、ブラジル人の60%がバイデン米大統領を支持しているという。論説は、「ラテンアメリカにとって、米国は、単に冷たく扱うには大きすぎる存在である」として、「今、ラテンアメリカの指導者たちは再びホワイトハウスに助けを求めている。彼らはバイデン政権がベネズエラの移民を受け入れている国への支援を増やし、欧州からの援助拡大を支援すること、コロナウイルス・ワクチンへのアクセスを加速すること、米州開発銀行を通じた緊急融資を拡大すること、森林と海洋の保護でパートナーを組むこと、腐敗と闘い、人権と民主主義のために闘う市民社会グループを支援することを期待している」と指摘する。
もっとも、前政権の外交政策の評判が悪ければ政権交代によって政策が変更されることへの期待が高まるのはある程度どこでもあることである。国際社会のリーダー役の米国についてはそのような傾向が強く、特にトランプとバイデンの関係は、このような傾向が顕著に表れている。メキシコの場合はもともと面従腹背的なところがあるが、ブラジルのボルソナーロ大統領(従来の姿勢を180度転換し、バイデンへの手紙の中でパリ気候協定へのブラジルのコミットメントを自慢したらしい)にとっても、米国で大統領が変われば前大統領に義理立ての必要はなく、新大統領とうまくやる努力は当然のことであろう。ただ、現在はまだご祝儀相場であり、バイデン側が具体的要求を突き付けているわけではないので、期待の高まりだけが感じられる状況であろう。
バイデン政権としては、当面のコロナ対策支援や経済支援、難民民受け入れ国支援等で期待に応えて域内諸国の信頼を得つつ、更に腐敗防止や人権、民主主義をテーマとした政策を進める場として米州サミットを活用すべく、ベネズエラやキューバ等に対する個別政策と共に戦略を練っているところであろう。特に、コロナ・ワクチンへのアクセスの確保支援については、地域的な連帯を取り戻し、米国がこの地域でリーダーシップを取り戻すチャンスでもある。
コロンビアのドゥケ大統領は、ベネズエラからの200万人の難民に暫定的な市民権を与え、就労を許可し公共サービスへのアクセスを認めるとの寛大な政策を決定した。これは、人道的には大変高く評価されるものであるが、相当な財政的負担ともなるので、このようなイニシアティブをバイデン政権は支援するべきであろう。日本にとっても、域外国として難民支援やコロナ対策にODAを活用して中南米の安定に貢献する機会である。
エクアドルでは2月の大統領選挙でコレア前大統領を師と仰ぐ左派系候補がリードして4月11日に右派の候補と決選投票となる。ペルーでは、4月の大統領選挙に向けて20人近い候補者が世論調査支持率10%程度以下でひしめいており、次期政権は相当にポピュリスト的色彩を強めることが懸念される。
バイデン政権が、米国への期待を背景にアルゼンチン、ボリビアなどの左派政権やエクアドルやペルーの新政権とも意思疎通を図ることができるか否かが、新たな地域的協調のイニシアティブを取れるか否かの鍵となろう。
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