2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年12月14日

 12月6日に行われたベネズエラの国会議員選挙では、反米左派のマドゥーロ大統領支持派が投票総数の約3分の2を獲得(国営テレビ発表)した。なお、投票率は約30%だったという。一方2015年の選挙以来多数派を占めてきた野党連合は、「選挙は自由で公正ではない」として大半がボイコットした。この結果、マドゥーロ派は国会を掌握することとなった。

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 野党の指導者で2019年に「暫定大統領」への就任を宣言したグアイド国会議長も議席を失う見込みである。グアイドには、選挙に参加して公正な選挙でないことをアピールすることも1つの選択肢だったかもしれない。しかし、選挙に参加すれば政権側に選挙に正当性を与える根拠として利用されることも目に見えていた。

 徹底的な経済制裁や天文学的なインフレによる経済破綻、失政や人権侵害に抗議する大規模な国民の抗議活動、大量の国民の国外流出等々にもかかわらず、何故マドゥーロは持ちこたえたのであろうか。これは、キューバの諜報組織やロシアの軍事支援を受けた軍、警察及び民兵組織による徹底した支配により国民の不満を力ずくで抑えていることによる。そのために国営企業等の利権を軍幹部に配分し、政府支持者を優遇するバラマキ政策等により最低限の求心力を維持してきた。

 憲法上の規定により暫定大統領就任を宣言したグアイドには、法的正統性の一応の根拠があり、欧米やラテンアメリカ主要国など50か国以上が支持し、一時期グアイドはベネズエラの民主化の希望の星であった。トランプ米大統領も、武力介入も選択肢にあることを匂わせ、最大限の圧力政策として、ベネズエラ原油の輸入禁止やベネズエラ原油を購入する第3国企業に対する制裁措置を含めた経済制裁を強化し、体制の変更を目指した。

 2019年4月には、グアイドらが軍隊に決起を呼びかけ、あと一歩というところまで事態は動いたが、結局失敗に終わった。この事件とその後の強硬派のボルトン補佐官解任を契機に、トランプのベネズエラに対する関心は低下したようにも見えた。ノルウエーの仲介工作やEU、リマグループ(マドゥーロ政権に批判的なラテンアメリカ諸国のグループ)の対話呼びかけも実ることなく、結局トランプ政権は何らの成果もあげることなく退陣となる。

 来年1月にグアイドが議員の地位を失えば暫定大統領としての法的根拠も弱まるであろう。マドゥーロは、議会での多数も獲得し、民主主義の体裁を備えた完全な独裁権力が完成する。その必要があれば、グアイドの身柄の拘束に踏み切るかもしれない。更に、米国の外交政策の空白をついて、ベネズエラ原油を中国に輸出することを計画しているとも報じられている。

 就任直後のバイデンは、このような事態にどう対応するのであろうか。難問山積のバイデンにとり、政策アジェンダにおけるベネズエラの優先度がそう高いとは思われない。従って、トランプの導入した制裁措置を直ちに見直すこともないであろうが、マドゥーロが取ろうとしている制裁回避策や反対派の弾圧や人権侵害、人道上の危機に効果的な対応ができるのか疑問である。

 EU側には、政権側との対話を求める一部野党指導者とのコンタクトを通じて外交上の努力で事態の改善を模索しようとの動きも見られる。バイデンも、グアイドに対する道義的支持は維持するものの、圧力だけでなく外交交渉によるアプローチに切り替えることになるであろう。マドゥーロも制裁緩和は実現したいので、交渉に応ずる素振りは見せるかもしれないが、むしろ自信を深めており、民主化等の面で実質的な譲歩をするとは思われない。

  
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