2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年11月17日

 10月18日に行われた南米ボリビアの大統領選挙は、接戦が予想され選挙結果をめぐり再び混乱が起きることが懸念されていた。事前の世論調査では、昨年11月まで14年間政権を握っていた社会主義運動党(MAS)の候補者ルイス・アルセと、中道派のカルロス・メサ元大統領との間での決選投票が予想されていた。しかし、エボ・モラレス前大統領のMAS党が指名した後継者であるアルセが大差で勝利し、対立候補もその結果を認め、とりあえず平和裏に政権が移行するようである。

Anton Litvintsev / iStock / Getty Images Plus

 アルセは、モラレス政権の財務相を長く務めた社会主義運動党の幹部であるが、英国で高等教育を受けたテクノクラートであること、モラレスとは異なり激しいレトリックも使わない穏健な政治スタイルであることが、今回の勝利の背景にあったと思われる。

 もう1つのアルセの勝利の理由は、アニェス暫定大統領ら右派が自ら招いた失策の数々であろう。暫定政権の下で検察を使ってモラレス派や先住民運動家を厳しく取り締まり、モラレス自身テロとテロのための資金調達の容疑で起訴されており、強姦と人身売買でも訴えられている。更に、本来、やり直し選挙のケア・テーカーであるべき暫定大統領が自ら立候補し選挙活動を始め右派側は分裂した。これらの状況を見て、白人の強権的独裁政権が復活することへの懸念が広く共有されたと考えられる。

 アルゼンチンに亡命中のモラレスは、帰国して数々の汚名をそそぎ、事実上の復権を図り院政を敷きたいと思っているであろう。アルセも選挙中は戦術としてモラレスとは距離を置き、「帰国は歓迎するが政府にその役割はなく、モラレス等の裁判に干渉しない」とは言っている。しかし、本人を目の前にして、また、党内の突き上げに直面してそのような態度を維持できるかとの懐疑的見方もある。

 社会主義運動党の中には、モラレス支持派もいれば、モラレス批判派もいるようである。アルセも今回の選挙の手ごたえを感じ、自信を深めているとの見方もある。エクアドルやコロンビアの例を見ても、一旦大統領になってしまえばその権限は絶大であり、元の大統領とのかつての関係がどうあれ、現職大統領が実権を握って独り立ちしていくのではないだろうか。

 外交上は、左派政権の復帰は、ベネズエラとの関係を回復し、アルゼンチン、メキシコ等の左派連合に復帰することになる。他方、米国との関係がモラレス時代のような最悪な状況に戻ることもないのではなかろうか。ボリビアにとっては、経済再建と新型コロナ対策が急務であり、米国を辛辣に非難するだけでは求心力は保てないであろう。

 アルセが国内融和に務め現実的な経済政策を進め、外国投資等に対してより柔軟な政策で取り組めば、ボリビアの展望も開けてくる可能性がある。そのためには、身内の左派の復讐心を押さえ党内を掌握し、右派側の反発にも適切に対処して、アルセ自身が予想外に有能な大統領となることが前提となる。

  
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