2024年11月24日(日)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2021年5月20日

台湾にとって痛恨の一撃

 茶芸館は場所貸しのビジネスモデルなので、接待を受ける方も接待する方も入場料を払えば自由に出入りできるため、多くの場所でさらに感染が広がる結果となったとみられる。感染例のうち、台北の茶芸館が155例、うち萬華周辺での発生が86例という大きな感染源になり、40例がリンクを追えていないという。

 ここで女性との接触があったライオンズクラブの幹部男性は、ライオンズクラブの会合でメンバーたちに感染させ、さらに感染が市中に蔓延することになった。ライオンズクラブの幹部男性からも中華航空のスタッフと同じ変異型が検出されており、その他の感染者もほとんど同じ英国型変異株であることから、台湾でコロナ対策にあたっている中央感染症指揮センターは、感染の連鎖をたどると、中華航空パイロットから一つの感染リンクとなるとみている。

 世界に例がないほど見事な対策を示してきた台湾にとって、まさに痛恨の一撃となった形だ。

19日の感染状況を速報で伝える台湾メディアの報道

 台湾では今回の感染爆発が広がる前は、新型コロナの世界的流行が始まった後の感染者数は約1200人、死者12人にとどめていた。それがこの1週間で1000人を大きく超える感染者を出している。最新の19日に判明した感染者は275(うち国内267)人で、年齢別では、40歳〜59歳が104人、60歳以上が109人と、中・高齢者が感染者の中心となっており、利用者の年齢層が高い茶芸館中心のクラスター拡大を裏付けている。

 指揮センターによれば現在、882人が入院中で、18日に死者2人が出ている。メディア報道によると、救急車の電話がつながらないなどのケースも出ている。医療環境もかなり逼迫しているとされ、台湾大学病院は感染者がつめかけてパンク状態になり、拠点病院の長庚医院でもほぼ満員状態となっている。4分の3ほどは軽症者であり、台湾政府では軽症者は拠点病院から出してホテルなど市中の隔離施設に移し替えることを求めている。

19日厳しい表情で会見する陳時中・中央感染症指揮センター指揮官

 台湾の感染警戒レベルは日本と違って明確な基準が設けられている。警戒度が低い順にレベル1から4までがある。レベル2は「感染源不明の市中感染」が発生した場合で、外出時の罰則付きマスク義務化、500人以上の屋外の集まり、100人以上の屋内の集まりが禁止となる。レベル3は「1週間に3例以上の市中感染クラスターが発生するか1日に10人以上の感染源不明の市中感染があるケースだ。

 レベル3は外出時のマスクのほか、屋外の集まりは10人以下、屋内の集まりは5人以下と厳しくなり、公共機関なども最低限の業務を除いて閉鎖される。レベル4は14日間平均で100例以上の感染源不明のケースが生じた形で、こうなるといわゆる完全な封鎖状態=ロックダウンとなる。

 18日まで、感染者の多い台北市や新北市だけがレベル3だったが、19日、従来の基準ではまだレベル2にもならないような感染がほとんど出ていない地域も含めて、台湾全土を5月28日までレベル3とすることを決めた。こうした過剰とも思えるほどの対応に、台湾政府の極めて強い危機感が現れている。台湾では現在、自主的なロックダウンと言えるほど人流が減っており、抑え込みの成功の継続を求める市民意識の強さは維持されている。


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