2024年4月29日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2012年10月25日

 第2に民主党内リベラル派の反乱です。ヒラリー・クリントンはずっと本命候補でした。しかし、彼女を含む民主党穏健派議員のイラク戦争賛成に、反戦リベラル派が失望した。党内リベラル派は、彼女ではない別の候補者をたてようとして、シカゴでかつて反戦演説をしていたオバマを担ぎました。2008年のオバマ旋風は、反ブッシュ、反共和党である前に、反クリントンとしての民主党内のリベラル派の革命でもありました。

2012年民主党大会で抱擁するクリントン元大統領とオバマ大統領 オバマ再選陣営は元ライバル夫妻との「和解」と「結束」をアピールした(「クリントンを必要としたオバマ陣営 ニューデモクラットからのオバマへの助言」) (撮影:渡辺氏)

 2006年秋がオバマ擁立の鍵となる時期でした。中間選挙で反ブッシュ政権の風向きを読んで、オバマ自身も周辺もこれならいけると決断したわけです。ナンシー・ペローシというきわめてリベラルな下院議長が誕生したことも関係しています。中間選挙で民主党が勝利していなければ、リベラル派はオバマを担いでまで民主党内を割らず、ヒラリーで党内一本化していたかもしれません。

 ブッシュ政権期に単独主義やイラク戦争でヨーロッパや世界との間に生じた誤解や信頼の回復を国民が望んだことも「風」となりました。アメリカの善というか懐の深さを示すのにオバマはかっこうの人物でした。マイノリティの大統領に投票することで、アメリカ人は外に向かってアメリカの変化をアピールしたとも言えます。

 2012年再選選挙で、オバマは陣営本部をワシントンではなく、あえてシカゴに構えました。ワシントンの「アウトサイダー」、シカゴが育てた政治家オバマの強調です。しかし、ブッシュ政権やイラク戦争をめぐる反戦ムードのような追い風はない選挙です。高止まりする失業率の責任は現職に当然あります。向かい風と分裂の加速のなかで、オバマの「1つのアメリカ」はどうなるのか。アメリカ人がオバマを吟味しつつ、オバマもアメリカの成熟と変化の本気度を試しているような気もします。本書には、そのあたりのアメリカの温度を盛り込んでみました。

渡辺将人(わたなべ・まさひと)
北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授。1975年生まれ。シカゴ大学大学院修了。米下院議員事務所、H・クリントン上院選本部、テレビ東京報道局「ワールドビジネスサテライト」、政治部記者、コロンビア大学、ジョージワシントン大学客員研究員を経て現職。専門はアメリカ政治。著書に『分裂するアメリカ』『オバマのアメリカ』(ともに幻冬舎新書)、『評伝バラク・オバマ』(集英社)、『見えないアメリカ』(講談社現代新書)、『現代アメリカ選挙の集票過程』(日本評論社)、共著に『オバマ政権のアジア戦略』(ウェッジ)、『オバマ・アメリカ・世界』(NTT出版)など。


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