2022年12月1日(木)

経済の常識 VS 政策の非常識

2021年5月26日

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資産課税でお金持ちにたくさん課税できるのか

 資産などへの課税によってお金持ちにより多く課税できないかという本題に戻ろう。まず、資産は多くの場合、すでに経済活動に投入されているのでそこから所得が生まれており、その所得にはすでに課税されている。その所得は前述のようにかなり補足されているようだ。とすると、金持ちは少ないのでその所得に重課してもたいして税収は増えないという結論は変わらない。

 では、株や土地などのキャピタルゲイン課税はどうだろうか。キャピタルゲインには実現したものと実現しないものがある。実現したとは実際に売却して現金を得たものである。実現しないものとは、売却はしていないが評価では利益が出ているというものである。未実現のキャピタルゲインに課税するといっても、実際にはお金がないのだからそこに課税するのは難しい。また、未実現のキャピタルゲインは大きく変化する。家計の持つ土地や株式を見ると、2000年から2019年までの間で、キャピタルゲインがマイナスになったのは、土地が12回、株が8回である(内閣府「国民経済計算」4.家計(個人企業を含む)b. 調整勘定(b)再評価勘定)。ゲインの時に課税するなら、ロスの時には払い戻しをしないといけないと思うが、そんなことができるとは思えない。するなら保有している額に応じた低率の資産課税であるが、資産の生み出す所得にはすでに課税されている。

 表1は、実現したキャピタルゲインへの課税額を示したものである。土地の長期譲渡所得、短期譲渡所得とは、それぞれ3年超の保有後に得たキャピタルゲイン(20%の課税)、3年未満の保有後に得たキャピタルゲイン(39%課税)である。株式のキャピタルゲイン課税は20%である。2019年を見ると、それぞれ9,531億円、254億円、6,080億円、全部合わせても1.6兆円にすぎない。39%の税率で課税される短期譲渡所得は254億円の税収でしかない。キャピタルゲインに重課すれば、様々な租税回避行動をもたらして税収が減ってしまう可能性が高いだろう。

 資産課税は問題だという前述の主張とは矛盾するが、私は、固定資産税は多少の増税は可能であり望ましいと考えている。地価は、新駅や新線や新しい道路の建設などによって上昇する。これらは税金または鉄道会社の費用で建設される。その利益が土地所有者に行くのは不公平である。未実現のキャピタルゲインにうまく課税する難しいことを考えれば、保有税を上げてインフラ費用を賄うことは合理的であると私は考える。ただし、これはインフラを賄うための税であって、これ自体で多額の税収を上げられるという訳ではない。

 相続税を表1で見ると2.1兆円である。2009年には1.2兆円だったものが増加している。これは基本的に増税したからであるが、今後死亡する人が増えるのだから、大事な財源になると思う人は多いだろう。確かにその通りなので、相続税の分布を見ると図2のようになる。

 課税価格を見ると1億円以下の遺産で相続税を支払っている人が多く、10億円以上の遺産の人は810人しかいない。その総遺産額(遺産額×人数)も2兆円でしかない。この人々はすでに55%の税率で相続税を払っている。ここからさらに10%追加しても2000億円しか税収は増えない。5億円超にしても3.4兆円にしかならない。ここから10%の追加的税金をとっても3400億円である。税金を取るには5億円以下のボリュームゾーンに狙いを付けないといけない。その遺産額は13兆円となる。

 これまでに分かったことを繰り返そう。お金持ちの所得に10%を追加的に課税しても2兆円弱である。お金持ちの犯罪者への課税は、実体が分からないので何とも言えないが、犯罪者の中でのお金持ちはやはり少ないだろう。キャピタルゲイン税の増税は減収の可能性もある。資産税のうち固定資産税の増税はインフラ目的にするという前提で良いと思うが、表1の固定資産税には建物や機械への税も入っているので、増税可能なのは1~2兆円だろう。相続税は5億円超の相続財産から10%増税しても3400億円である。すべてを合計してもせいぜい4兆円である。しかも、増税で経済の悪化や租税回避行動を招く可能性もある。国の財政赤字(コロナ禍のこの1~2年は考えない)は40兆円ほどなので、その補填をするには及ばない。

  
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