経済の常識 VS 政策の非常識

2021年5月26日

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原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

 前回、お金持ちは少ないのでお金持ちに重課してもたいして税収は上がらないと書いた(高所得者への所得税拡大は財政健全化につながらない)。これに対して、通常の所得税以外にも、キャピタルゲイン課税、資産保有税、相続税などによって、お金持ちからより多くの税収を上げることができるのではないかという疑問があるかもしれない。今回は、これについて考えてみたい。

(Overearth/gettyimages)

すべての所得は捉えられているか

 本題に入る前に、所得が捕捉できているかどうかを考えたい。前回は、家計の所得を調査した国民生活基礎調査という統計を使った。この統計には、相続によって得られた資産以外のすべての所得(給与所得、自営業所得、利子・配当・不動産収入なども)が捉えられているはずである。したがって、この金額がたいしたことにはならないので、お金持ちに課税してもそうたいした税収は上がらないというのが結論だった。しかし、そもそも国民生活基礎調査に本当にお金持ちの所得入ってはいないだろうと言われればそんな気もする。

 そこで、現実に税金を徴収している国税庁の統計の方があてになると考えて、申告所得の階級別データを使ってみた。結果は、図1のようになる。所得を申告している人は、所得2000万円以上の会社員と自営業者、副業収入のある人人たちである。平均的な会社員が抜けてしまうので、前回の給与所得や国民生活基礎調査のグラフよりもお金持ちがたくさんいるように見える。しかし、所得1500万円以上の人の所得合計は19.5兆円でしかない(国税庁の統計では1500万円での区分がないので、1000万円超2000万円以下の所得の半分を1500万円超2000万円以下の所得とした)。ここには給与所得、自営業所得、配当収入、不動産収入なども入っている。

 前回、1500万以上の給与所得者の所得を足し合わせても16.7兆円にしかならないと書いたが、所得1500万以上の人の所得すべてを足し合わせれば19.5兆円ぐらいにはなりそうだ。これに追加的に10%の所得税を課せば2兆円弱の増収入になる。

 これに対して、犯罪ないしはすれすれの所得でのお金持ちは多いのではないかという議論があるかもしれない。確かに、やくざの親分さんなどは豪邸に住んでいる。しかし、日本の刑務所には微罪で捕まったクリカラ紋々おじいさんがたくさんいる。高齢で生活保護を受けている人にもそういう仲間がいるようだ。非合法活動でお金持ちになるのも狭き門だという気がする。門倉貴史氏によると非合法所得が26.5兆円あるということだから(『日本の「地下経済」最新白書』SB新書、2018年)、ここに課税できれば多少の税収は上がる。しかし、この世界のお金持ちも少ないだろうから、多額とはならないのではないか。

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