2024年11月22日(金)

経済の常識 VS 政策の非常識

2021年5月14日

 新型コロナウイルス感染拡大による歳出拡大への対策として、高所得者に増税すれば十分な税収を上げられると考える人がいるかもしれない。しかし、これは大きな誤解である。お金持ちの数は少ないし、お金持ちの所得すべての国民全体所得に占める比率も小さいからだ。特に日本はそうである。

 これは、一律10万円のようなバラマキを止めれば少ない予算で効果的な支援ができるという誤解にもつながる。お金持ちは少ないので、お金持ちに配らなければ巨額の予算が節約できると考えるのは誤りである(「経済の常識 VS 政策の非常識 所得制限は机上の空論、緊急時は一律給付が最善策」)。本稿では、税金の観点からお金持ちは少ないということを見た上で、そうした層への所得税の増税は税収にどれだけ効果があるのかを考えてみよう。税金には、通常の所得税以外にも、キャピタルゲイン課税、金融資産や不動産に対する財産税、相続税といったものもあるが、ここでは考えないとする。

(takasuu/gettyimages)

所得と人数と税収の関係

 図1は、給与の所得階級ごとの人数と総所得(人数×所得)を示したものである。1500万円以上の給与所得者は、71万人しかいない。その人々の所得を足し合わせても16.7兆円にしかならない。これは、追加的に10%の所得税を課しても1.7兆円の増収にしかならないことを意味する。これらの人々は、すでに33%から45%の税金を払っているので、追加的な10%の課税は、地方税の10%を合わせて限界税率を53%から65%にするということである。

 一方、国民すべての所得を合わせれば229兆円となる。これに5%の追加的課税であっても11.4兆円の増収となる。所得税で大きな税収を上げるには、多くの人々にそれなりの率で課税しなければならないことになる。

 ただし、1000万円から1500万円の人はかなりいて、その総所得も21.8兆円ある。これは図1で1500万円以下(1000万~1500万円の収入)のところが膨らんでいることで直感的にも理解できるだろう。これらの人々とは、大企業の管理職ではあるが、役員ではない人ということになるだろう。ここを狙い撃ちすれば税収上は効果的だろう。実際、近年の給与所得控除の減額などは、この層からの税収をかなり高めたのではないだろうか。


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