日本国憲法から世代間格差を考えると…
ここでは、日本国内の「最高法規」(日本国憲法第98条)として法秩序の頂点にあり、日本という国の統治の基本を定めた日本国憲法において、将来世代やその利益はいかなる扱いを受けているかを見てみる。
まず、憲法の前文も含めた全条文に将来世代を想起させる言葉――具体的には、「子孫」「将来」――がいくつ出てくるかを調べてみると、「子孫」は憲法前文に1箇所、「将来」は第11条、第14条3項、第97条の全部で3箇所ある。このうち、第14条3項については勲章などの効力に関するものであり、直接将来世代の利益に結びつくものではないので除外できる。したがって、憲法の中で将来世代の利益に関して直接的に触れていると考えられるのは、基本的人権を規定した第11条と法の下の平等を規定する第14条1項である。
憲法第11条の条文を見ると、同条後段で、「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」と、基本的人権は、若い世代はもちろんのこと将来世代といった選挙権を有しない世代にも与えられていることを明記している。
さらに加えて、憲法第25条1項では、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めている。これはよく知られているように、生存権を保障した規定である。この第1項を受けて第2項では、国に生存権を具体化するための諸施策を展開する努力義務を課している。しかし、同条を根拠として、国民が政府に対してなんらかの具体的な権利を主張できるわけではなく、単に政府に政治的・道義的義務を課したに過ぎないというのが通説の見方である(プログラム規定説)。
したがって、同条の規定が直接的に将来世代の生存権に関する具体的権利を保障するものではもちろんないが、政府や国会に対して、少なくとも将来世代の生存権を保障する施策を展開する政治的義務を課しているとは言えるだろう。ただし、実態はと言えば、将来世代は、生涯所得の半分近くを現在世代にすでに差し出さなければならない状態にある。
次に、憲法第14条1項で規定される法の下の平等を見てみよう。法の下の平等とは、国家は各々の国民を法的権利・義務関係において平等に取り扱われなければならないというものである。通説では、法が特定の国民を不平等に扱ってはいけないという法内容の平等と法が課す義務の面で、同一条件、同一事情のもとでは平等に取り扱われるべきという相対的平等の概念などを含んでいるとされている。