2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2021年6月21日

進化するドローンの「目」
温度差でパネル故障を検知

 安全性や事業性で課題を残したまま、スケジュールありきで規制緩和が進む物流分野。だが、本来ドローンがその真価を発揮するのは「運ぶ」よりも「見る」分野だ。

 IT・デジタル分野の市場調査・分析を行うインプレス総合研究所の『ドローンビジネス調査報告書2020』の予測によれば、最も市場規模が大きいと予想されるのがインフラや高層ビルといった設備の「点検」で、農薬散布や種まきといった「農業」分野が後に続く。これらの分野での飛行は、原則、目視内かつ空域内に第三者がいない状況で実施するため、現行制度内で対応可能だ。さらに近年の技術革新もめざましく、ドローンを用いたレーザー測量や3Dモデルの作成、自動走行アプリの搭載なども可能になった。

(出所)インプレス総合研究所「ドローンビジネス調査報告書2020」の分野別市場規模の見通しを基にウェッジ作成 写真を拡大

 アイエイチプランニング(東京都板橋区)は、ドローン撮影を用いた設備点検(橋梁・ダム・太陽光パネルなど)を請け負う。同社の森英昭社長は点検業務でのドローン活用について、「大型ダムの壁面に足場を組んで目視でひび割れや剥離を確認する作業は、ときに数千万円の費用が掛かるが、ドローンを活用すればその10分の1程度に収めることも可能だ」という。

 さらに、太陽光パネルの点検では構成部品(セル)の温度変化をドローンに搭載した赤外線カメラで感知することで異常を発見する。セルに不具合が生じると周囲のセルと回路が遮断され、発電をしても電気の逃げ道がなくなり表面に熱が発生する。目視では確認できないそのわずかな温度差をドローンの「目」が捉えるのだ。

ドローン搭載の赤外線カメラでパネル表面の温度差(5~10℃)を感知(IH PlANNING)

 農業用ドローンを用いた空中散布事業(農薬散布、施肥、播種)を展開するワイズ技研(東京都渋谷区)は、埼玉県立羽生実業高等学校農業経済科のスマート農業に関する授業カリキュラムの一環として「ドローン操縦訓練」を提供する。5月に実施された初回の授業では、実際のドローン飛行を見学した。約2㍍四方の大型農業用ドローンが音を立てて校庭の空に舞い上がった瞬間、思わず生徒たちから歓声が上がった。

 同校の仲山嘉彦校長は「生徒たちにはドローンの動きや音、サイズ感といった〝リアル〟を体感させたい。国全体でICTを用いた農業のスマート化に取り組むならば、次世代の農業の担い手を育てる我々教育機関でこそ、積極的に新たな技術を授業に取り入れていくべきだ」と語る。

災害現場で活用
東京消防庁の取り組み

 さらに近年、ドローンの〝目〟を活用できるとして注目されている分野がある。災害現場だ。

 東京消防庁即応対処部隊では20年4月から、広域的な自然災害の際にいち早く被害状況を把握することを目的として、ドローンの活用を始めた。従来の災害用ヘリによる撮影では上空からの俯瞰した視点でしか災害状況を把握できなかったが、ドローンを用いることで、撮影高度を下げたり、建造物の裏に回り込んだりといった視点の移動が自由にできるようになった。 

 さらに、同部隊の田仲龍太総括隊長は、災害現場の指揮を執るうちに、当初想定していなかったドローンの新たな〝視点〟に気づいたという。

 「活動する隊員たちの目線の高さでドローンを飛ばすことで、彼らの視点を共有し、離れた場所からも適切な活動作業を指示することができた。ドローンは今後、現場指揮者の目の代わりとして活躍できる可能性を秘めている」

 以上見てきたように、あらゆる場面でドローンの活用は広がっている。だが現状、「空の宅配便」のイメージが強く、それに引きずられている感がある。航空工学を専門とする東京大学の鈴木真二名誉教授・特任教授は「ドローンが街中で荷物を運んでいる映像はシンボリックであり、政府・国民双方にとってイメージしやすいが、ビジネスとして本当に有益かどうかについては費用対効果もふまえた冷静な議論が必要だ。物流分野に限らず、ドローン活用の裾野は広い」と述べる。

 人類が夢見た世界が一つひとつ実現している21世紀。未来の技術革新のためには理想を追い求めることも大切だが、はるか上空を見上げ続けるだけでは、足元にある可能性には気づけない。新たな技術の発展や社会課題の解決にはドローンのような広い視野を見渡す〝目〟が必要だ。ドローンが活用できる「宝の山」は我々の身近なところにまだまだたくさん眠っているかもしれない。

Wedge7月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■資源ウォーズの真実  砂、土、水を飲み込む世界
              
part I-1    〝サンドウォーズ〟勃発! 「砂」の枯渇が招く世界の危機 
   2            ハイテク機器からシェールまで 現代文明支える「砂」の正体          
     3        砂浜、コンクリート…… 日本の知られざる「砂」事情とは?   
              
part II-1    レアアースショックから10年 調達多様化進める日米
   2            中国のレアアース戦略と「デジタル・リヴァイアサン」         
     3        〝スーパーサイクル〟再来 危機に必要な真実を見極める眼力
              
part III-1   「枯渇」叫ばれる水 資源の特性踏まえた戦略を   
   2           重み増す「水リスク」 日本も国際ルール作りに関与を    
     3         メコン河での〝水争奪〟 日本流開発でガバナンス強化を

  
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◆Wedge2021年7月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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