「いかに情報銀行の必要性を国民に理解してもらうかが課題だ」
小誌の取材に対し、事業化に向け準備を進める各企業の担当者は一様に語る。銀行、印刷、電力、メディアなど、さまざまな業界から20社を超える事業者が名乗りを上げ、事業開始を目前に控える「情報銀行」。この日本発のビジネスモデルの仕組みはこうだ。
我々がECサイトやアプリを利用すれば購買履歴や位置情報、金融情報などのデータはサービスを提供する企業に残る。こうした個人に紐づくデータを「パーソナルデータ(以下、PD)」と呼ぶ。情報銀行では、ネット上に散在するPDを個人の口座に集め、本人の同意に基づいて、そのデータを利活用したい事業者に提供する。利用者は提供先企業からポイントや割引クーポンなどのメリットを享受でき、情報銀行自体も仲介手数料を得るという仕組みだ(下図)。
情報銀行はなぜ生まれたのか。その背景には、GAFAをはじめとしたメガプラットフォーマーへの反発があった。欧米を中心にグーグルやフェイスブックなどのプラットフォーマーが、PDをターゲティング広告などに使い、収益獲得に利用していたことに世界的な批判が集まった。日本国内でも、欧州に倣い、PDをGAFAなどデータ保有者から個人に戻し、その運用を本人に任せるべきとの機運が高まった。だが、PDを戻そうにも、本人自らがPDを持つ事業者に開示請求を行い、保管し、第三者からの利用の申し出を受け付けるのは手続きが煩雑だ。そうした手間を第三者に委託するとの考えから「情報銀行」という発想が生まれたのだ。
事業開始へのカウントダウン
データの価値は誰が決める?
しかし、国は「PDは本人自身のもの」と謳いつつも、「総務省は『GAFAや中国から合法的に国民のPDを取り戻し、国内で利活用したい』という気持ちが先走っていた」と、情報銀行に関する検討会の内情を知る関係者は語る。
国のGAFAへの対抗意識と、「21世紀の石油」と称されるデータの利活用に新たな活路を見いだしたい国内企業との思惑が合致し、共同実証事業が走り出した。2018年度に6件、19年度に4件実施され、併せて4億4000万円の税金が投じられた。
民間独自の事業を立ち上げ、開始間近の企業もある。例えば大日本印刷。同社は、産経新聞との事業開始を本年度中に予定している。同社が展開する産経IDなどの会員基盤から属性や趣味・嗜好、将来の目標などのデータをアプリ内に蓄積し、それらを分析することで、自己実現や余暇の充実など、利用者の目的に沿った情報や製品・サービスを提供する企業とのマッチングを図る。
大日本印刷コミュニケーション開発本部情報銀行事業推進ユニットの勝島史恵副ユニット長は「産経新聞はこれまで、購読者やニュースサイトの利用者に対して多様な情報、サービス、イベントなどを提供してきたが、それらのデータはバラバラに保管されたままだった。アプリを通じて整理すれば、利活用の幅が広がる」と語る。