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2019年9月19日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

 グーグルやアマゾンなど大手IT企業がデジタル市場を支配しようとしていることへの懸念が強まる中、公正取引委員会の杉本和行委員長は18日、日本記者クラブで「デジタル時代の競争政策」と題して講演した。

 「消費者はデジタル時代のメリットを享受する一方で、デジタル・プラットフォーム企業は独占化、寡占化する傾向がある。公取委としてはデジタル市場関連分野で、競争が制限され消費者の利益が損なわれる行為には、独占禁止法により迅速に対応していく」と述べ、消費者に選択の余地がある公正と自由を担保する競争政策を進める考えを明らかにした。

(Palto/gettyimages)

「競争なくして成長なし」

 「公取委員長に就任して6年半になるが、公取委が進めている競争政策に対して『過当競争をあおるもので、仲良く企業活動をする日本的企業風土を害するものだ』というマイナスイメージの意見を耳にすることがあるが、企業は消費者のニーズに合った財・サービスを幅広く効率的に提供することで利益を上げることができる。そのために、消費者に選択の余地があるような環境を整備するのが我々のミッションだ」と強調した。

 「それを実現するためには企業と消費者はガチンコで向き合う必要がある。経済成長のインセンティブを保持するためには、競争環境の整備が不可欠で、これによりイノベーションが促進される。競争なくして成長なしだ」と指摘した。「そのイノベーションがIoTやAI(人工知能)、ビッグデータなどの周辺で起こっている。こうした分野で競争環境を整備するのが重要で、プラットフォーマー企業に着目しなければならない」と述べた。

巨大な存在に

杉本 和行(すぎもと・かずゆき)氏 1974年財務省(旧大蔵省)入省、97年主計局法規課長、2001年主計局次長、07年主計局長、08年財務事務次官、10年みずほ総合研究所顧問、13年3月公正取引委員会委員長に就任。兵庫県出身(日本記者クラブ提供)

 デジタルデータが利用される場合には、ネットワーク効果により、特定のプラットフォーマーへの利用者の集中が進みやすくなり「ウィナー・テイクオール(勝利者が全部取ってしまう)になりがちで、同時に市場の支配力が出やすい構造になっていることから、独占、寡占が起きやすい」という。

 検索の分野では、世界市場でグーグルのシェアは18年11月時点で92.4%、SNS市場ではフェースブックが69.3%、米国のeコマース市場ではアマゾンが49.1%を占めている(週刊東洋経済18年12月22日)。

 しかも、グーグル、アップル、フェースブック、アマゾンのいわゆるGAFAと呼ばれるIT大企業は「事業領域を拡大し、単なる検索、SNSだけでなく産業の大きな部分をカバーする巨大な存在になっている」とみている。

 このため欧米でもGAFAに対する監視の目が強まっており、欧州委員会はグーグルに対して制裁金を課し、米国当局は全州でグーグルの企業活動の調査を行うなど積極的な対応をしているという。

プラットフォーマーを調査

 公取委は17年6月にアマゾンに対してサイトへの出品者の事業活動を制限している疑いがあったことから、独禁法に基づいて審査を行った結果、アマゾンから自発的な是正措置が講じられた。同月には、デジタル・プラットフォームを含む事業者が、競争者に対してデータへのアクセスを拒絶することや、顧客から不当なデータ収集を行う事は独禁法上問題になり得る場合があるとの報告書を公表した。

 また、19年1月にはプラットフォーマーの取引慣行に関する実態調査の一環として、事業者、消費者から、競争政策上問題と考えられるプラットフォーマー事業者との取引実態や、プラットフォームサービスを利用する消費者に関する情報提供の窓口も設置し、公取委の目が届かない情報の提供を呼び掛けている。

情報の提供はプラットフォーマーとの取引

 独禁法はこれまでは企業と企業との取引関係、特に取引価格に注目、企業と個人との関係はそれほど着目してこなかった。しかし、杉本委員長は「デジタル市場で個人情報が検索サービスやSNSを通じて無料でデジタルフォーマーに提供されるようになったことで、企業と個人との関係が重要視されるようになった。なぜなら、プラットフォーマーはこの情報を材料にして、ターゲット広告ビジネスを展開するようになったからだ。このことは、検索、SNSサービスは消費者と企業との取引関係と位置付けられ、独禁法の対象になると考えられる」と主張した。

 こうした流れを受けて公取委は経済産業省、総務省と一緒にプラットフォーマー型ビジネスのルールを定めることにした。その一つは、プラットフォーマー間と、プラットフォーマーと競争関係にある企業との関係をイコ-ルフッテイングにすることで、取引の透明性と公正性を確保するための規律の導入に向けた検討を始める。具体的には内閣府に「デジタル市場対策会議」を立ち上げて、独禁法を補完する規制を検討することになるという。

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