野村総合研究所の小林慎太郎上級コンサルタントはPDの利活用について、「そもそもデータとはサービスを利用することで初めて価値が生まれるものだ」と述べる。例えば、動画配信サービスを提供するネットフリックスでは、視聴時に履歴データが残るが、それらは本人へのレコメンド精度向上のために用いられる。つまり、サービス自体に魅力があってこそデータは利活用されるのだ。「10年ほど前に米国でも、情報銀行のようなサービスが立ち上がったが、ほとんど消えてしまった。利用者にとってみれば、当時の提供先企業が提示した特典や付加価値は、無償で使いやすいサービスを提供するGAFAに対抗するだけの魅力がなかったといえる」(同)。前出の庄司教授も「国も企業も『個人データを集めれば何かできるのでは』との曖昧な期待が大き過ぎる。漠然とPDを集めてもビジネスは成り立たず、リスクも増える。国民に提供したいサービスや価値がまず先にあるべきだ」と指摘する。
医療データを本人に
〝目的遂行型〟の情報銀行
そんな中、PDを持つ本人に、それを預ける価値を感じてもらって情報銀行を成立させようと挑む動きがある。
SMBCグループは健康・医療データを対象にした情報銀行事業の展開を目指す。19年3月以降、三井住友銀行、大阪大学医学部附属病院、日本総合研究所と共に実証事業を進める。実証事業ではまず、病院内にブースを設け、妊婦を対象に医療データの情報銀行について説明して口座開設を案内した。それに同意した妊婦は、スマホで胎児のエコー画像が見れるなど、医療情報にいつでもアクセスできるようになる。同銀行の事業は、登録した利用者自身が利用料を支払う仕組みだ。
妊婦からは、子供の医療データを蓄積することで、「旅行先で子供が病気になったときに、病院に持病などを適切に伝えたい」「子供の医療データを管理して、大人になったら渡してあげたい」といった声があったという。同グループのデジタル戦略部宮内恒部長は「将来的には、さまざまな病院を受診する人々の、手術記録や検査画像といったより重用度の高い診療データを保管、管理していきたい」と語る。
さまざまな形で事業開始を目指す各企業─。だが、「情報銀行」という名の〝ハコ〟を用意しても、国民がPDを預けるに値しないと評価すれば、その中身は空っぽのままということになる。「蓋を開けてみれば何も残らなかった」といった事態を招く前に、いったん立ち止まってサービス内容や情報銀行そのものの必要性について再考すべきではないだろうか。
■トランプVSバイデン 戦の後にすべきこと
Chronology 激化する米中の熾烈な覇権争い
Part 1 21世紀版「朝貢制度」を目論む中国 米国が懸念するシナリオ
Part 2 激化する米中5G戦争 米国はこうして勝利する
Part 3 選挙後も米国の政策は不変 世界情勢はここを注視せよ
Part 4 変数多き米イラン関係 バイデン勝利で対話の道は拓けるか
Column 1 トランプと元側近たちの〝場外乱闘〟
Part 5 加速する保護主義 日本主導で新・世界経済秩序をつくれ
Part 6 民主主義を揺るがす「誘導工作」 脅威への備えを急げ
Part 7 支持者におもねるエネルギー政策 手放しには喜べない現実
Part 8 「新冷戦」の長期化は不可避 前途多難な米国経済復活への道
Column 2 世界の〝プチ・トランプ〟たち
Part 9 日米関係のさらなる強化へ 日本に求められる3つの視点
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