2024年4月26日(金)

Washington Files

2021年6月28日

自伝の出版に、二の足を踏む出版社

 その後も、奇妙な言動で話題は持ちきりとなっている。

 去る6月10日、ブルンバーグ・ニュースが特ダネとして報じたところによると、トランプ氏は最近、保養地の一角にある会堂で行われていた、全く面識のない故人の「偲ぶ会」会場に何の前触れなしにひょっこり姿を見せ、壇上のマイクを握り、故人とは関係のない政治談議をひとしきり始めた。面食らう遺族たちをよそに、前大統領はかまわず、暫く会場に居残り、初対面の出席者たちと楽しげに会話していたという。

 また、別の日には、同じ保養地内の他人の結婚式レセプション会場に“招かれざる客uninvited guest”として飛び込み参加、勝手にグラスを持って「乾杯!」のトーストをした後、新婚カップルへの祝辞もそこそに、「昨年11月の大統領選挙は不正だらけで、自分は勝利を奪取された」「バイデンが(大統領として)やっていることは、くそったれだ」「自分だったら、越境してくる不法移民を完全遮断できる」などと、延々10分以上にわたる恨み節を披露した。

 途中、選挙結果について、トランプ氏が「私は7500万票も獲得した。歴代誰も達成しなかった偉業だ」などと自慢話に及んだところ、出席者の一人が「バイデン氏は8200万票集めた。とにかく、選挙は終わった話」と割り込む場面もあったという。

 こうしたトランプ氏の近況について、ニューヨーク・タイムズ紙の著名コラムニスト、フランク・ブルーニ氏は、次のように論評している:

 「米国の歴代大統領は、一般市民が見上げるような寓話とか逸話、あるいは超人的アバターの存在のような何らかの要素を雰囲気として備えていた。ロイヤル・ファミリーというものを持たない国民はそれを必要としていた。対照的に、トランプの場合、(大統領という)地位に依拠した世間の名声だけにしがみついてきた。アメリカの象徴的な“富と権力亡者”でもあった。ところが、大統領の座を離れたとたん、フェースブック、ツイッターでの発信手段を絶たれ、CNNやMSNBC テレビから相手にされなくなった上、世間からも注目されなくなった。

 過去の大統領の場合、ホワイトハウスを去った後は、品位を保ち、静かなゆとりある余生を暮らしてきたものだが、彼だけは違う。これまで同様に世間の歓心を集めずにはいられず、その挙句に、他人の葬式や結婚式にも姿を見せ悦に入ることになる……彼はこれまで以上に、歪曲された現実のとりこになり、全能者であるかのような振る舞いを続けるだろう」

 もちろん、トランプ氏には、世間の注目を一気に集める有効な手段がある。過去、歴代大統領の例にならい、衝撃的な内容の「回顧録」出版だ。

 ところが、「Esquire」誌によると、Penguin/RandomHouse、Harper Collins、Simon and Schusterなど「ビッグ5」で知られる大手出版社はいずれも、トランプ氏側からのアプローチにもかかわらず、二の足を踏んでいるという。(この点、オバマ前大統領の場合は、すでにPenguin/Random Houseから回顧録『Promised Land』(約束の地)が出版され、大ベストセラーとなっている)

 トランプ氏は去る11日、回顧録問題に関連して、自らプレスリリースを出し「今、本の中の本=究極の本the book of all booksを執筆中。ただ、大手2社からの依頼は断った」と明らかにした。

 ところが、電子メディアPoliticoが「ビッグ5」を含む主要出版社に当たったところ、事実無根で、出版のアプローチをしたところは1社もなかった。これらの出版社の担当者たちは、興味を示さない理由として「在任中、4年間で3万573回(ワシントン・ポスト紙調査)もの虚言を繰り返してきた人物が何を書いたとしても、読者が信用してくれるだろうか? それに編集側も、内容すべてについて真偽を確かめるのに大変な時間と労力がいる」などとコメントしているという。

 「身から出た錆」と言うほかないだろう。 

  
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