Washington Files

2021年6月28日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 1月退任後、ツイッター、フェイスブックなど頼みとしてきた主要SNSでの発信手段を奪われたトランプ氏。だが、その後も、知人、友人相手に、雑談、電話のやりとりでの突飛な自説開陳や、予期せぬ行動に出るなど、精神状態を懸念する声まで出始めている。

26日、オハイオ州ウェリントンで支持者集会を行ったトランプ前大統領( REUTERS/AFLO)

 トランプ氏に関する最近の最もホットな話題は、何と言っても「今年8月大統領復帰」の“クーデター”説だろう。

 ニューヨーク・タイムズ紙のマギー・ハーバーマン記者が去る6月7日、「3人の側近」の話として報じたところによると、トランプ氏は、バイデン当選が確定した2020年大統領選の「違法性」が連邦最高裁で認知される、との根拠のない判断の下に「その結果、自分は8月には、ホワイトハウスに戻ることになる」などと取り巻きたちに漏らしているという。

 この「8月復帰」説は、熱狂的トランプ支持者として知られる大手枕メーカー「MyPillow」経営者マイク・リンデル氏がかねてから唱えてきたもので、根拠として①トランプ氏が接戦で敗れたアリゾナ、ジョージア、ミシガン、ペンシルバニア、ウイスコンシン各州に導入された「Dominion」社の投票マシンは最初からバイデン票が多く集計されるように仕組まれていた②ミシガン州では投票時間締め切り後、深夜に10万票以上の「バイデン支持投票用紙」が不正に持ち込まれた③ジョージア州の共和党議員団が票の数え直しに向けて動き出しており、最終的に同州での勝敗が逆転する④8月には関連各州でも選挙不正が確定し、共和党派判事が多数を占める最高裁が「バイデン当選」の無効の裁定を下す⑤法の支配の原則により、バイデン氏は大統領の地位をはく奪され、トランプ氏がホワイトハウスに戻る―などといった、いずれも客観性を欠いた仮説が挙げられている。

 今のところ、政府機関、議会はもとより、米国内でこうした陰謀説をまともに受け取るマスメディアや専門家は皆無に近いが、トランプ氏は今日なお、自分が再選を果たせなかったことを容認できず、復帰説を信じ切っているという。

 この点に関連して、トランプ氏が大統領選敗北確定後の去る1月5日、ホワイトハウスからジョージア州の州務長官(共和党)に直接電話を入れ、延々1時間にわたり、集計やり直しを執拗に求めていたことが暴露され、大きな話題となった。

 ワシントン・ポスト紙が入手したこの時の会話録を改めて聴き直すと、集計やり直しの結果、不正は見つからなかったと説得する州務長官に対し、説明を受け入れず、興奮気味に同じ要求を何回も繰り返す、国の最高指導者とは思えない異常ともいえる言動が、否が応でも浮かび上がってくる。

 その中には、以下のような常軌を逸する発言も含まれていた:

 「昨年11月3日投票日に、ミステリーじみているが、ジョージア州の何カ所かで、25万から30万票という“幽霊票”が投票箱の中に投げ込まれていた。とくに、フルトン郡がひどい。君たちは、これらの票の署名をちゃんと再確認すべきだ。そうすれば、(バイデン陣営による)インチキぶりがわかるはずだ」

 「投票日、午前中の遅い時間に、ある投票所に黒服、黒頭巾の男が現れ、置いてあった投票箱を持ち出し、代わりにスーツケースやトランクに入れた別の投票用紙をひそかに持ち込んだ。最低、1万8000票あった……このほか、州外からも何人も有権者が投票所に来たという報告が何件もある。とんでもないことだ」

 「今回の選挙で、バイデンが史上最多票を獲得したなどと世間で言われているが、全くでたらめだ。われわれ(トランプ陣営)は実際は、全米50州のすべてで勝利した。上院でも勝った。下院も勝った。ジョージア州でも、自分が負けることなんかあり得ない……」

 「とにかく、大量の不正票がジョージア州の投票箱に入れられた。わが方は今、独自にこれらの票について、真偽を確認中だ。今にわかるだろう。不正票数は(バイデン候補が上回った勝差の)1万1779票より格段に多いことは間違いない」

 「死人票もあった。死亡届が出されている人物たちだ。5000票近くはあった。このほか、今朝、入ってきた情報だが、投票用紙が焼却されたり、シュレッダーにかけたり、投票マシンがインチキ・メーカーの『ドミニオン社』製に取替えられた」

 「(ミシガン州)デトロイトの投票状況もひどいものだった。君は知ってるかね、有権者投票率がなんと139%にも達しているんだぞ。ペンシルバニアでも、全有権者数より20万票も多い投票があった……いずれにしてもまもなくわかるが、各州で票の数え直しが行われているので、次々に結果はわが方の勝利へと逆転するはずだ」

 このような、客観的裏打ちのない、あまりにも突飛な発言の数々を延々と並び立てる大統領にいら立っていた州務長官も、さすがにしびれを切らし、約1時間後、最後は自分の方から、以下のようなそっけない答えで電話を打ち切ってしまった。

 「ミスター・プレジデント、先ほどから、話を聞いてきたが、私は同意できない。州内のあらゆる投票所を再チェックしたが、あなたが言う“大量不正票”など、どこにも見つからなかった。投票マシンについても、『ドミニオン』社以外の別のマシンで集計し直したが、結果は同じ票数だった。あなたが勝利したなどとは、とても信じられない」

 世界最強国の大統領が、同じ共和党に属する、たんなる州の1役人に見くびられた“歴史的瞬間”でもあった。

 そして、1月20日、バイデン次期大統領就任式の際は、当人は、過去歴大統領が必ず出席し厳かな雰囲気の中で政権引き継ぎのジェスチュアを国民の前に示すしきたりを無視、その日のうちに、自ら保有するフロリダの保養地に舞い戻った。

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