世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年7月7日

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 6月17日、北朝鮮の金正恩(労働党総書記)は、北朝鮮は米国との外交と対決の双方の準備をする、と述べた。これは、バイデンが米大統領就任して以来、核交渉再開の用意があると示唆した金正恩の最初の公けの発言である。

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 国営朝鮮中央通信(KCNA)が18日に報じたところによれば、この発言は、労働党の中央委員会総会においてなされたとのことである。金正恩が、労働党の中央委員会総会で、「北朝鮮は米国との外交の準備をする」と述べたことは、国民に周知させることを目的にしたもので、米国との外交(この場合は核交渉を意味する)を重視していることが明らかである。

 ジェイク・サリバン安全保障担当大統領補佐官は、6月20日、今回の金正恩の発言につき「興味深いシグナル」と評した。これに対し、22日に金与正(労働党副部長)は、「誤った期待はさらに大きな失望を招くことになる」、「米国は自らを慰める『夢占い』をしている」などと否定して見せた。

 とはいえ、金正恩がこの時点で米国との核交渉再開を望んでいることは必ずしも否定できない。その背景には北朝鮮の深刻な経済事情、とくに深刻な食糧不足があるものと見られる。BBCの報道によれば、金正恩は党幹部との会合で、農業部門は昨年の台風による洪水で穀物の目標を達成できず、「人民の食糧事情は厳しくなっている」と述べたとのことである。そのうえ新型コロナウィルスの感染防止のため中国との国境を閉鎖せざるを得なかった。北朝鮮は食糧、肥料、燃料で中国に頼っている。金正恩としては、このような事情に鑑み、核交渉の再開に同意することで、米国などの経済制裁が解除され、食料の輸入ができるようになることを望んでいるものと思われる。

 しかし、金正恩が北朝鮮の全面非核化に同意するとは考えられない。金正恩は、北朝鮮にとって核は抑止の手段として安全保障上不可欠と考えているものと思われる。それは、北朝鮮のこれまでの核政策で明らかである。金正恩は米国と短期的な取引を行い、核について何らかの部分的削減措置を講じる代わりに、制裁が部分的に解除され、食料の輸入が可能になることを望んでいるものと思われる。

 一方バイデン政権も、北朝鮮政策の検討を4月に終え、それ以来、米政府当局者は、「金正恩に核の在庫をすべて破棄するよう圧力を加えるが、トランプのように大きな取引は求めない」旨を述べている。ホワイトハウスのサキ報道官は、「北朝鮮を相手にゆっくり進み、小さな取引を目指す」と説明しており、北朝鮮との短期的取引には反対しない可能性がある。問題は短期取引の先である。北朝鮮はそれ以上のことは考えていないと思われる。一方、バイデン政権は、あくまで目標は北朝鮮の非核化であり、短期的取引はその目標に達する一歩に過ぎないと見ている。このように米国と北朝鮮は交渉再開の意味するところについて同床異夢であり、北朝鮮の非核化の道のりは厳しい。

  
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