2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年6月15日

 5月26日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、エドワード・ホワイト同紙ソウル特派員が、北朝鮮の中国との貿易は息を吹き返しており、制裁と新型コロナウイルスのための国境封鎖で経済が打ちのめされている金正恩への圧力を弱めていると述べている。

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 ホワイトの解説記事は、北朝鮮の経済は壊滅的状態だったが、中国との貿易が再開し、息を吹き返していると述べている。

 北朝鮮の経済は最近まで危機的状態にあったらしい。農業が不作であったうえに、新型コロナウイルスのため中国との国境が封鎖され、中国からの食糧や他の必需品の輸入が止まったため、深刻な食糧危機に見舞われた。農村部に住む人の大半はトウモロコシを主食としているとのことだが、そのトウモロコシの価格が急騰し、入手が困難になっているという。国連のキンタナ北朝鮮状況特別報告者は、報告書で、深刻な食糧危機がすでに栄養失調や餓死につながっていると警告したと報じられている。

 金正恩は、1月5日に開幕した朝鮮労働党第8回党大会で、「国家経済発展5か年戦略の実行期間が昨年終わったが、掲げた目標はほぼすべての部門で未達成だった」と失敗を認めたと報じられた。金正恩委員長が経済政策の失敗を認めたのは異例なことで、北朝鮮の経済がいかに深刻な状況にあるかを物語るものと言える。

 その中で、北朝鮮の中国との貿易が再開されたとのことである。中国は北朝鮮の最大の貿易相手国である。ジェトロによれば、2019年の北朝鮮の国別貿易額では、韓国を除き、中国が 95.4%と圧倒的に大きかった。北朝鮮は中国に、食料、燃料を初め、生活必需品や工業製品を頼っている。その中国との貿易が新型コロナウイルスのために国境が封鎖され、途絶えていたので、北朝鮮経済への影響が深刻であったのは当然である。

 中国と北朝鮮の関係では、北朝鮮にとって中国が死活的重要性を占めているのみならず、中国にとっても北朝鮮は重要である。中国は朝鮮戦争のとき北朝鮮を支援するため軍事介入した。これは北朝鮮が崩壊すると米国の影響力が国境にまで迫るので、中国としてはこれを何としてでも避けたかったのであろう。その上北朝鮮が崩壊すると、何百万という難民が中国に押し寄せる危険がある。中国としてはこれも何としてでも避けたいところだろう。そこで中国は北朝鮮に食料、肥料、燃料などを供給し、北朝鮮政権の安定を支援することになる。

 軍事面では、中国は北朝鮮が軍事力を強化することは支援するだろう。ただ北朝鮮の核は別だろう。朝鮮半島の非核化については、中国が、韓国の核武装に反対するのは当然であろうが、北朝鮮の非核化については北朝鮮との関係から正面からは反対とは言わないだろう。しかし、それは北朝鮮の核武装を肯定することは意味しない。中国は北朝鮮の軍事力が強化されることには賛成だが、核は別で、内心は反対であると思われる。もし北朝鮮が核武装すれば韓国が黙っておらず、韓国内で核武装論が高まる恐れがある。これは中国として避けたいところであろう。中国にとって、北朝鮮は、「生かさず殺さず」の言うことを聞く弟分のような存在にしておきたいのだろう。

 バイデン政権の北朝鮮政策については、北朝鮮がバイデン政権の外交政策で優先度が高くないというのが実情のようである。アジア政策に限ってみても、中国が優先度が高いのが明らかである。バイデン政権は、北朝鮮政策の検討を終え、大統領府のサキ報道官は、現実的アプローチを取ると述べた。それが何を意味するのか明らかではないが、北朝鮮政策を優先的に扱うというニュアンスはない。

 ホワイトの解説記事は、バイデン政権は北朝鮮に対する制裁を重視しないようにしているとの一専門家の言葉を引用している。バイデン政権が北朝鮮に対する制裁を重視していないとすれば、北朝鮮はほっとしていることであろう。ただ、それは、おそらく対話を重視して、日米韓の連携のもと、北朝鮮を交渉の場に引き出し、非核化を進めたいということなのだろう。中国の出方を見ながら、「飴と鞭」のアメに多少舵を切るということか。

  
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