世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年7月26日

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Douglas Sacha / Moment / allanswart / iStock / Getty Images Plus

 7月7日、南アフリカのズマ元大統領は、地元のクワズル・ナタール州の自宅の前で支持者が集まる中、警察に出頭し収監された。ズマは組織的な汚職容疑に係る司法調査委員会への出廷を拒み、憲法裁は6月29日に法廷侮辱罪で禁錮1年3月の刑を言い渡していた。期限(7月8日午前0時)までに出頭しない場合は逮捕することになっていた。ズマの検察や裁判所等との長年の執拗な戦いの当然の帰結であり、余り驚きはない。

 ズマと支持者達は実力で抵抗する構えで、流血の事態になると警告していた。そうしたこともあり、警察は逮捕に躊躇していたようである。実際、ズマの収監を受け、南アフリカでは大規模な暴動が発生、200人以上が死亡、2500人以上が逮捕される事態となった。なお、7月16日にラマポーザ大統領は、状況は概ね鎮静化したと述べている。

 ズマの収監は、法の支配確立の始まりかもしれないが、終わりではない。今回ズマが問われているのは法廷侮辱罪であり、いわば手続き違反が問題にされているだけである。真に問われるべきは汚職や国家財産の略奪である。しかし、インド系財閥グプタ兄弟達が絡んだ汚職容疑の裁判などがズマと支持者達による抵抗のため一向に進んでいないことに変わりはない。グプタ兄弟の容疑は、2000年代初め頃から既に問題化していた。詳細は分からないが、今回の収監についても、ズマ派の弁護士等が司法手続上の戦術を駆使して形式犯で処理し、本丸の汚職裁判については政治的動員力で抑え込もうとする戦術なのかもしれない。保釈されるかもしれない。法相は、規則に従い一定期間経過後申請できると述べている。

 ズマ収監のニュースは、元大統領の収監という社会ニュースの要素が強い。一層大きな意味合いがあるとすれば、①ズマの政治により国際的にも大きく傷ついた南アフリカのデモクラシーへの信頼を取り戻せるか、②巨大な政権与党ANCの劣化を解決するために同組織の改革を断行できるかどうかの二点である。

 ズマ政権の9年、南アフリカはそのデモクラシーに対する国際的信頼を落とした。それは、残念ながら、南アフリカにとり汚辱と劣化の時代だった。世界で最もリベラルな憲法を擁する南アフリカの民主主義は後退した。ズマは、第二代大統領ムベキの副大統領を務めたが、品と規律のあるムベキとはそりが合わず、2005年には汚職容疑で解任された。その後ズマ勢力は任期途中のムベキの失脚を図り、2009年にズマは大統領に就任、18年まで政権を維持した。しかし、その間経済問題は解決せず、黒人急進派による大衆政治(モッブ・ポリティックス)は横行する。一部の者は、現憲法は白人が作ったものだと主張しているという。

 汚職が蔓延し、グプタ兄弟等ズマの縁故主義が一層進み、検察、警察とズマ達の間の恒常的な対立が続いた。ズマは全ての疑惑を否定した。ANCの有力者は、国営企業、特に電力公社ESKOMに入り込み、私腹をこやした。ESKOMは経営危機に直面した。また、ズマはレイプ容疑で起訴されてもいる(裁判により無罪)。ズマは、支持者を動員、政治化し、あらゆる法的戦術を駆使した。ズマは正に古い政治家であり、その手法は「間違った黒人政治」の手法だった。

 ズマの問題は、与党ANCの問題でもある。今のANCはマンデラやムベキが率いた時代とは大きく変わっている。婦人部や青年部は一層強硬な勢力になったように見える。今ANCは党首で改革派のラマポーザとそれに反対するズマの勢力に二分されている。5月ラマポーザは、ズマの同盟者である事務総長マガシュレを職務停止に追い込んだが、未だ係争中。今回のズマ収監が改革派の強化になることを期待したい。

  
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