2024年11月24日(日)

WEDGE REPORT

2021年8月5日

収束の見通しなく、海運業は対策不可避

 これまでのところ、双方による攻撃は無差別に第三国の船舶を巻き込む形では行われていない。イスラエルはイスラム革命防衛隊に関係する船舶を、イランはイスラエル系企業が関連する船舶を対象としている。ただし、7月3日にアラビア海で攻撃を受けた船舶は数か月前にゾディアック・マリタイム社が手放したものであったため、イラン側の情報収集は不十分なところがあるとみられる。このため、現在はイスラエルと関連がなくても、過去に関わりがあれば攻撃の対象となる可能性は排除できない。なお、イランは21年1月に環境汚染を理由に韓国船籍のタンカーをホルムズ海峡で拿捕したが、実際には韓国政府が米国の制裁に応じてイランの資産を凍結したためとみられている。また、「マーサー・ストリート」への攻撃の後、オマーン湾でアスファルトタンカーが何者かに拿捕されたが、本稿執筆段階では詳細不明であるものの、イスラエルとは無関係の船のようである。

 イスラエルとイランの報復の応酬は海だけで行われているわけではない。イランがイスラエルに関連する船舶を攻撃した直接的な理由には、イスラエルがシリアの空港に対して行った空爆や、イラン核施設へのサイバー攻撃が含まれると報じられている。今後、イスラエルが英国などと行う報復の対象には地上目標も含まれるであろうが、それが再び海での報復を呼ぶことも想定される。ウィーンでの米国とイランの核合意に関する協議が開かれるタイミングに合わせたとみられる事案もあるため、今後の米イラン関係も海上での〝影の戦争〟の行方に影響を与えるであろう。

 当面、海上での〝影の戦争〟が収束する見通しはない。日本の海運業界としては、イスラエルに関連のある、もしくは関連のあった船舶を中東海域で運航する時には十分な対策を行う必要がある。特に、アブラハム合意にともなって行われるイスラエル、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンの三国間輸送に関わる場合には、細心の注意が求められる。また、海上自衛隊は、20年から情報収集のため護衛艦1隻を同海域に派遣しているが、万一の際に日本関係船舶を護衛するための十分な法的基盤を持たないままである。日本政府は、ジブチを拠点とする海賊対処部隊の哨戒機も使って情報収集体制を強化するとともに、商船の護衛のために必要な法整備と対処方針の検討を行うべきである。その際には、アラビア海に展開する米国およびEUをそれぞれ中心とする有志連合との情報共有に加えて、共同対処も念頭に置くことが望ましい。

  
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