イラン国営テレビは4月11日、サレヒ原子力庁長官の次のような声明を伝え、中部ナタンズの核施設がテロ攻撃を受けたことを明らかにした。
①ナタンズ核施設で起きた異常事態は破壊工作で核テロである、②イランは加害者に対する報復の権利を留保する、と。
またザリフ同国外相は事件翌日の4月12日、ナタンズ核施設での異常事態はイスラエルによる攻撃であったと述べて非難し、報復措置を明言した。
国際エネルギー機関(IAEA)の査察対象であるナタンズ核施設は、イランのウラン濃縮化プログラムの中核的存在で、4月10日に改良型遠心分離機「IR6」を稼働させたほか、最新鋭の「IR9」の稼働テストにも着手したばかりであった。
他方、イラン核開発の阻止を目指すイスラエルの公共放送カン(Kan)は攻撃当日、情報機関筋の話として、諜報機関モサドがサイバー攻撃を仕掛け、施設の損傷はイランで報じられているより大きいと伝えた。
さらにイスラエルのテレビ・チャンネル12は4月13日、政府高官の話として、①イスラエル所有の民間船舶にイランがミサイル攻撃を行った、②死傷者は出ておらず船舶は航行を続けたと報じ、同国所有の民間船舶がアラブ首長国連邦(UAE)の沖合で攻撃を受けたことを明らかにした。
それから約10日後の4月22日未明、イスラエル軍はシリアからミサイル攻撃があり南部のネゲブ砂漠に着弾したと発表した。使用されたのが本来は地上攻撃には用いない対空ミサイルであったりと不明瞭な点があるものの、この攻撃がそれまでと大きく異なるのは、着弾地がディモナ核施設の近くであった点である。イスラエル政府は同施設に被害はなかったとしている。
興味を惹かれるのは、イランの某識者が保守系紙で、イスラエルへのミサイル攻撃発生の前の週の時点で、仮にナタンズ核施設で発生したイスラエルによると思われる破壊工作に見合う報復措置を取るとすれば、イスラエルのディモナ核施設への攻撃以外にないと述べていたことである。
筆者は、イスラエルの公共放送がイランの核施設への攻撃を同国が行ったと報道したのは、組閣に難航するネタニヤフ首相の戦略の一環と考えている。3月23日に行われた国会(定数120)総選挙の結果、与党リクードを率いるネタニヤフ首相の支持者数は、全てを合計しても過半数を大きく下回る52議席に過ぎなかった。
そのため同首相は、リブリン大統領の指示による4週間の期限内での組閣困難と考え、国外に揉め事があるので組閣には今少し時間が必要と訴え、規定上可能な2週間の延長を得ようとしたのではないか。
だがネタニヤフ首相による組閣の見通しは立たず、5月5日、リブリン大統領は野党指導者のラピド元財務相に組閣を命ずる事態となった。しかしラピド氏の野党イェシュアティドの議席は17議席と心許なく、議員の過半数の指示を得られるかは、依然不透明だ。
核をも巻き込んだイスラエル政局の混乱は、収束には遠そうだ。
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