2024年11月21日(木)

Wedge REPORT

2021年8月24日

 この年は日本と中国が国交を回復して20年という節目であり、秋には友好を象徴する天皇皇后両陛下の初訪中が決まっていた。お祝いムードの中で日本は絶対に抗議はしないと読み切った中国は2月、唐突に「中国領海法」を制定し、中国が管轄する地理的範囲(領土)に尖閣諸島が含まれると明記した。言語道断だが、同法14条には、その周辺海域に許可なく侵入する外国軍艦を実力で排除する権限を軍に付与するという内容も含まれていた。

 同法制定後、中国は翌93年、尖閣諸島の北方海域に広がる日中中間線付近で、天然ガス田の開発に乗り出す。さらに96年からは、日本の排他的経済水域(EEZ)を含めた東シナ海の全域で、潜水艦の行動を念頭に、水温や塩分濃度の測定など海洋調査を活発化させ、次第に海軍艦艇の行動を中国沿岸部から東シナ海、西太平洋へと拡大させていった。その仕上げが、2009年の「中華人民共和国海道保護法」(海道保護法)だ。

 この法律は、領海法で自国領と一方的に宣言した南シナ海の島々や東シナ海の尖閣諸島について、軍や政府機関が共同で管理することが目的で、同法施行(10年3月)と同時に、中国は国家海洋局の海監(当時)に所属する巡視船を尖閣諸島周辺に出動させ、不定期ながら警戒監視活動をスタートさせている。

 5月には鹿児島・奄美大島沖の日本のEEZ内で、海洋調査中だった海上保安庁の測量船「昭洋」に対し、「ここは中国の法律が適用される海域だ」などと測量の中止を求め、海監船が4時間にわたってつきまとう事態に発展。さらに9月には、尖閣諸島の領海内で、違法操業する中国漁船が、退去を求める海保の巡視船2隻に衝突を繰り返し、逃走する事件まで発生させている。 

軍事戦略上の価値に気づいた中国

 尖閣諸島の領有について、執拗かつ強い執念を見せる中国。着実に歩を進める中国の狙いは、当初の資源獲得だけでなく、米軍の接近を阻止することを目的とする海洋の防衛戦略を完成させるために必要な戦略的な要衝であることに気づいたからだ。

 尖閣諸島は五つの島と三つの岩礁から構成され、最大面積の魚釣島でも3.82平方キロメートルに過ぎない。だが、周囲12海里の領海面積は約2万平方キロメートル、領海の外側に広がるEEZまで含めれば、その広さは約17万平方キロメートルに達し、日本の国土面積の4割にも匹敵する。

 狭いと言っても、魚釣島は東西約3.5キロメートル、南北約1キロメートルのサツマイモのような形で、最大標高は約350メートル、戦前は漁業を中心とする村落が存在していた。ここに水平線を越えて探知可能なOTH(Over The Horizon)レーダーを設置すれば、ミサイル発射基地としての価値は極めて高い。

 例えば、中国が現在、台湾を標的として保有する短距離弾道ミサイル(最大射程500キロメートル)を配備すれば、沖縄本島をはじめ、石垣島など南西諸島は完全に射程内となる。対空、対艦ミサイルを加えれば、魚釣島は東シナ海に浮かぶ「要塞」だ。

 自衛隊幹部は「尖閣諸島が中国の手に落ちれば、周辺海空域における自衛隊の行動は著しく制限され、沖縄本島の米軍はすべての機能をハワイやグアムに引き下げることになる」と明かす。


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