また、今後は微細化プロセスにも限界がくる。そこで注目されているのが、半導体チップの積層化だ。インテルは、7月の製造技術に関しての発表会「Intel Accelerated」で、3Dパッケージング技術を発表した。ここでも、日本のイビデン、新光電気工業といった企業の技術が欠かせないものとなっている。これらは「ムーアの法則」(微細化の限界)を乗り越えるという意味で「More than Moore」と呼ばれる動きだ。当然、TSMCも注目している技術であり、3月にTSMCがつくばに研究拠点「ジャパン3DIC研究開発センター」を設けたのは、その名の通り、この積層技術を磨くためだ。
この他、日本には半導体に使用される電子部品を製造する企業、アクチュエータ(動力源)となるモーターの製造企業も存在する。単品ではなくサプライチェーン全体の重要性が高まっているなかで、日本国内に半導体に関するこれだけのパッケージがあるということは大きな強みとなる。
さらに米中対立が高まるなかで「経済安全保障」の必要性がかつてないほど叫ばれるようになった。AI、データ解析、そしてデータそのものの秘匿など、その核となるのは半導体だ。だからこそ、米中をはじめとして、半導体を自国内で生産することの重要性を再認識していると言える。
世界で進む
官民協力の新時代
「官主導」と聞くと、「そんな時代ではない」という声が聞こえてきそうだが、一方で「民」だけでは完結できない時代に入っていることも事実だ。実際、米国では520億ドル、欧州連合(EU)では1500億ドル以上にも及ぶ半導体関連予算を積み上げている。
インテルのパット・ゲルシンガーCEOは、TSMCなどファンドリ主導の状況を脱却するべく、自ら新工場建設を進める一方で、米国、欧州の政府機関を行脚して、投資や敷地提供を求めている。時代は、「官と民による新しい協業時代」に入っている。
ゲルシンガー氏は「世界の半導体の8割がアジアで製造されているのはリスク」と、米欧の政府関係者に説いているが、幸いこの発言の中に日本は入っていない。中国の影響が強い、台湾・韓国とは一線を画した存在として認識されているのだ。
それは日米同盟という二国間関係が基盤となっていることに加えて、前述の通り、日本が多くの半導体関連技術を持っていることが大きい。例えば、世界の半導体製造装置のシェアでいえば、米国が約40%、日本が約30%で、日米で約70%にもなる。名実ともに日米はパートナーの関係にある。
しかし、日本にも課題はある。例えば、政府系の研究機関は、欧米と同様の機関と比べ国への依存度が高い。日本の大学にも言えることだが、民間企業と協業して成果を上げるといった独立採算の道を探るべきだ。
そして何より重要なことは、アップルに代表されるイノベーティブな商品・サービスを生み出す企業が日本国内から現れてくるか否かだ。アプリケーション先(実用)があってこそ、最先端の半導体も生きるからだ。
(聞き手・構成、編集部・友森敏雄)