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2021年1月26日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

 「産業のコメ」ともいわれる半導体の需給が昨年の秋ごろから急激にひっ迫し、トヨタ自動車、ホンダ、フォルクスワーゲン(VW)など主要自動車メーカーが軒並み減産を強いられるなど影響が広がっている。半導体は今後、EV(電気自動車)や5G(次世代通信網)構築のために需要増が見込まれている。今回の深刻な半導体不足の原因と、何時頃になればこれが解消に向かうかについて、英国の調査会社オムディアのコンサルティングディレクターの杉山和弘氏に聞いた。

(MARHARYTA MARKO/gettyimages)

――何時頃から何が原因で足りなくなってきたのか。

杉山コンサルティングディレクター 昨年の秋以降、11月ごろから年末にかけて半導体の生産が追いつかず、需給がひっ迫して厳しくなってきた。原因としては新型コロナの影響が大きいと考えられる。昨年の初めに中国で新型コロナが発生、このため中国をはじめ、世界の自動車メーカーが減産となり、半導体メーカーは自動車向けの半導体需要はスローダウンするだろうと予測した。

杉山 和弘(すぎやま・かずひろ)1977年生まれ。2000年にNECに入社、2010年ルネサスエレクトロニクス社へ転籍(ルネサステクノロジー社とNECエレクトロニクス社が合弁でルネサスエレクトロニクス社を発足)し、LSIの製品設計から事業戦略立案業務に従事。16年IHSマーキット入社、19年Informa Tech社へ転籍(Informa Tech社がIHSマーキット社のテクノロジー部門買収により)し、コンサルティングディレクターとして市場分析などを行う。IHSマーキットのテクノロジー調査部門が19年8月にInforma Tech社に買収され、その後、2020年1月から、正式にInforma Techのブランド名であるオムディア(OMDIA)のコンサルティングディレクターとして活動している。

 わが社の2019年時点での今後5年の半導体の伸び率予測も1%と低くみていた。ところが、中国がいち早くコロナ禍から回復してEV普及のための支援策もあって自動車需要が急速に回復、産業界も5Gのインフラ投資も増えた。さらに、先進国を中心にテレワークが拡大し、パソコンやスマートフォン、ゲームなど民生用需要が急増したため、こうした製品に使われる半導体の生産が優先され、車載向けが追いつかなくなった。

――中国の半導体メーカーに対する米国の経済制裁との関係はどうみているか。バイデン新政権が誕生して中国に対する強硬姿勢に変化はあるか。

杉山氏 米政府が半導体を受託生産している中国大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)に対して経済制裁をしたため、SMICから供給を受けていたメーカーが世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)をはじめとした他の半導体デバイスを生産するファウンダリなどに急きょ注文したが、TSMC、他も既に稼働率がいっぱいで、すぐには追加注文に応じられなかった。バイデン新政権が誕生しても、米国政府として強硬姿勢を取る方針なので、大統領が代わってもこの姿勢に変わりはないだろう。米国政府は中国を意識して、先端分野の半導体開発を促進しようとして米国半導体工業会(SIA)が、合計2~5兆円の連邦製造助成金を投資する法案を議会に提出しており、開発に力を入れようとしている。

――トヨタ自動車をはじめ世界の主要な自動車メーカーに生産調整の動きが広がっているが、半導体不足は何時頃まで続きそうか。

杉山氏 半年から1年はかかり、長引きそうだ。なぜなら、半導体市況は18年は好況だったが、19年から不調だったため、半導体メーカーは同年以降に半導体製造のキャパシティを増やすための設備投資をしてこなかった。新規のレガシー製品(民生、車載など)向け需要に対しては設備投資よりも、既存設備の稼働率を上げることで対応しようとしたのが半導体メーカーの本音ではないか。このため昨年後半から急に需要が増えたからといって、すぐに設備投資をして生産を増やすことはしなかった。

 しかし、先日、に台湾のTSMCが280億ドルの設備投資をすると発表、需要増に対応しようとはしている。だが、投資の大部分は、先端事業であるスマホ、データセンターサーバー向けの半導体の回路線幅は5nm(ナノメーター)、3nmであり、車載系のレガシー向け投資は積極的ではなく、いまの需給ひっ迫の解消にはつながらないとみる。自動車メーカーはサプライチェーン(部品の調達網)の複数化をしてきてはいるが、半導体に関してはそれぞれが特徴ある半導体を製造していることもあり、すぐには調達先を変更するのは難しいという事情がある。

――先進各国が脱炭素計画を発表しているが、このことが半導体需給にどう影響してきそうか。

杉山氏 先進国が競うようにカーボンニュートラル政策を推進しているため、今後は再生可能エネルギー関連の太陽光発電、風力、グリッド(電力網)などに使われるパワー半導体の需要が増えると見込まれ、すでにこの動きは、中国、欧州市場で始まっている。このため半導体メーカーは、パワー半導体の供給をコロナにより需要ダウンした車載半導体から再生可能エネルガー関連へシフトが起きているようだ。急に需要が増えたEV向け自動車用のパワー半導体への供給不足が出てきている。今後、パワー半導体が不足になる懸念もある。

――中国で生産している半導体で不足分を補うことはできないのか。

杉山氏 中国は米国の経済制裁により、半導体製造に必要な装置の入手が難しくなった。中国最大のファウンダリであるSMICも昨年末、米商務省が輸出管理法に基づき国家安全保障や外交政策上の懸念があるとして指定した企業を列挙したエンティティリストに掲載され、米国政府の許可なしに、米国関連技術の製品を輸入できないためである。米国と日本で世界シェア80%を占める半導体製造装置を米国の許可なく輸入できないため、製造キャパの拡大に問題が生じる。また、製造技術レベルも現状はまだ世界トップとは差がある状況である。半導体の回路線幅を見ても、世界のトップファウンダリは、いまでは7nmや5nmなどの一桁レベルの最先端半導体が主流になっているが、中国では28nmの半導体しか製造できておらず、半導体分野での超精密製造技術の遅れが目立ってきている。

 このため中国政府は60兆円もの経済対策を行ったリーマンショック後の経済対策を上回る100兆円もの対策をコロナ後に打つとしており、対象分野も5G、AI(人工知能)、IoT、EVなど先進分野に集中して支援する構えを見せている。中国は2028年にはGDPで米国を抜くと予測されている。半導体製造装置などを欧米や日本からの輸入にしなくても経済大国になれる自信を示したい狙いがあるのではないか。

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