2022年12月5日(月)

#財政危機と闘います

2021年9月27日

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島澤 諭 (しまさわ・まなぶ)

関東学院大学経済学部教授

富山県生まれ。1994年東京大学経済学部卒業 同年4月経済企画庁入庁。調査局内国調査第一課、総合計画局計量班、調査局国際経済第一課等を経て2001年内閣府退官。02年秋田経済法科大学経済学部専任講師、04年10月秋田大学教育文化学部准教授。15年4月から中部圏社会経済研究所研究部長を経て、22年4月より現職。

 ケインズ的な総需要管理政策の本質は、将来の需要の先食いであり、そのツケを将来の納税者に負わせることにある。しかも、新規国債発行額の累積額の大きさによっては、インフレなどによる実質的なデフォルトをもたらすかもしれない。

 したがって、積極的な総需要管理政策の展開は、現在の高齢世代や現役世代を利するかもしれないが、その負担の大部分を付け回される若者たちにとっては損となる。

②所得再分配の強化は若者にとって損

 次に、政治の力によって所得再分配を強化すべきとの主張を見てみる。こうした主張の背景には、アベノミクスは、大企業や高所得層に恩恵が偏り、一般の労働者には恩恵が及んでいない。だから、大企業が内部留保としてため込んでいるおカネを吐き出させて賃金に回させれば、労働者の所得環境が改善し、消費も回復するので、日本経済は活性化するということだろう。では、現実はどうだろうか。

 内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部が作成・公表している「国民経済計算」によれば、リーマンショック前の2008年と2019年とを比べると、雇用者報酬(賃金)では、266.7兆円が286.8兆円と7.5%増加する一方、営業余剰(利益)は98.6兆円が93.3兆円と5.4%の減少となっている。つまり、リーマンショック前と比べても、この10年間で賃金は確実に伸びたのだが、利益は大幅に減少しているのだ。

本当に必要なのは付加価値のある生産

 したがって、日本経済が低成長を続ける真の問題は、生産から賃金の流れが目詰まりを起こしているのではなく、国内で生産される付加価値が増えないことにある。当然ながら、パイを増やすことなく、パイの分け前のみを論じても、国民が押し並べてジリ貧になるだけなのだ。結局のところ、富の創出には生産能力の増強が必要だ。

 私たちは生産活動に従事することによって、対価を稼いでいる。地主は土地を生産活動に供する対価として地代収入を得るし、資本家は資本の対価として利子収入を得、労働者は労働サービスを企業に提供する見返りとさして賃金を得る。つまり、生産があって初めて所得を稼得でき、その所得によって消費が行われる。逆に言えば、消費が行われるには所得が必要で所得を得るには生産が必要だ。所得再分配の強化だけでは日本経済の低迷を脱することはできない。

 結局、再分配の強化だけを論じていては、貧乏になった日本が残されるだけで、再分配強化によって一時的に手元の現金が増えたように見ても、長期的には若者たちの生活は改善しないだろう。

③生産能力の強化は若者にとって得

 各候補とも、成長戦略として、「科学技術立国」「大胆な危機管理投資(公共事業)」「デジタル化と脱炭素化」などのキーワードを掲げている。

 標準的な経済成長理論によれば、持続的な経済成長にとって重要なのは、新たな技術開発などによる全要素生産性の向上であることが知られている。つまり、各候補が掲げる成長戦略によって全要素生産性が改善されれば、バブル崩壊以降低迷を続け「失われた30年」になろうとしている日本経済を復活させることができる。経済が復活すればそれに合わせて税収も増えるので、経済にとっても財政にとっても良いことだろう。

 ここでは、仮に、成長戦略によって、1980年からバブル崩壊直前までの安定成長期に実現していた平均実質経済成長率4.4%の成長軌道を実現できるとしよう。このような想定の下、前の世代の選択肢よって次世代の選択肢をどの程度狭められているのかを金銭的に評価する世代会計(詳しくは「財政破綻しなくても財政再建が必要なシンプルな理由」を参照)を試算すると、40歳未満世代で生涯純税負担率が大幅に改善することが分かる(図1)。つまり、安定成長期並みの経済成長率が実現できるならば、経済成長の促進は若者世代にとっては得となる。

(出典)筆者試算 写真を拡大

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