「へこまず試す」が
遠回りに見え、実は成功への近道
入社2年目、池田は突然、異動を言い渡された。行く先は茨城県。業務は学校に教材などを販売する営業。前任者は事情あって引き継ぎをする間もなくいなくなっていた。彼はまったく土地勘もない、それどころか教育関係者に一切、コネクションがない状態で水戸へと向かうことになった。
「車に教材を詰め込み、どこへ行ったらいいかわからなかったので、カーナビに『水戸駅』と入れて出発したことを覚えています。当然、学校を訪ねても話をして下さる先生はいません」
けんもほろろに「話はいいから見本を置いていけ」と言われたこともあった。誰とも話せず、ホテルに帰り、一人悲しく本を読んでいた時期もあった。当然、教材はまったく売れない。
そんな絶望的な状況を、彼はいかに脱したのか。ポイントは、人の助けを得ること、あとは、人を助けることだったという。
「会社の編集部の人に、茨城県内で誰か知っている先生がいないかを聞いて、ご紹介いただいたんです。そして、お会いした先生方に、自分はどうしたらよいでしょうか? と素直に聞きました」
職業柄、親切にアドバイスしてくれる人も多かった。その後、様々な先生方と対話を重ねるうち、池田は重要なヒントを耳にした。
知性とは「法則を知ること」
「ある進学校で“ほかの学校はどうしてる?”と質問されたことがあったんです。やはり熱心な先生は、例えば他県の優秀な進学校ではどんな指導をし、どんな教材を使っているのか気になるようなんです」
これがわかったことで道が開けた。池田は先生たちに「他県の進学校の情報を持ってきました」と伝えることで、次第に話を聞いてもらえるようになり、販路を拡大していったのだ。
知性とは「法則を知ること」である。まず、自分の体験を元に仮説を立てるのだ。例えば「勉強は、興味がないことを押しつけられると嫌いになる」「熱心な先生は、他県の進学校の情報を知りたがっている」といったもの。次に、これが本当か検証し、実際に望み通りの効果があれば、それは「自分だけが知っている仕事の法則」になるのだ。
≪POINT≫
最近ビジネス誌などでよく『PDCAサイクル』という言葉を耳にする。プラン(PLAN)、ドゥ(Do)、チェック(Check)、アクト(Act)の頭文字をとったものだ。そして、これを何度も繰り返すことが成功への道と言われる。最初にプランを立てる。この時点では、従来のやり方や仮説を元にしていて構わない。次に実行する。その途中で何度もチェックを加え、改善に向けてのアクションを起こす。興味深いのは「プランを立て」「実行する」だけでなく、当初から「チェック」と「改善」が必要とされていることだ。これは最初から上手くいくことなど何もない、という事実を示しているのではないか。