2024年4月23日(火)

ルポ・少年院の子どもたち

2013年1月18日

 また、ライフセーバーとは、

 ―ライフセービング活動に携わる者をライフセーバーという。また、狭い意味ではライフセーバーの資格を取得した者をさす。ライフセーバーの使命は溺者の救助のみではなく、事故を未然に防ぐことにある。数多く救助したライフセーバーが優秀なのではなく、利用者に安心できるような環境を作り、尚且つ事故を出さないことが重要である。また、ライフセービングを広く一般に普及して行くのもライフセーバーの使命である。―

 矯正教育施設としては、おそらく国内ではこの『水府学院』だけの試みとなるライフセービング講座。ではなぜ、少年院でライフセービングなのか?

 その理由は、浜辺の安全に配慮し、事故を未然に防ぐという思想や、年間を通して行われる救急救命のトレーニング、ライフセーバーの心を育む生命教育等、全ての活動の目指す先が社会奉仕という一点に結ばれていることにある。人と社会を繋ぐモデルケースとして、退院後の彼らの生き方の指針になるのではないか。また、失われる生命やその悲しみを伝えることによって、自分や他者の生命の重みに気づかせることが出来るのではないか。それが再犯の防止や非行の抑制に繋がると考えられるからである。

初開講までの講師たちの葛藤

命の大切さについて少年たちに語りかける、植木将人氏

 講師に招聘された植木と北矢は、「犯罪には必ず被害者がいる。その人たちのことも絶対に忘れてはならない」と日々教室で接している生徒たちと同年代でありながらも、過去に過ちを犯している彼らに、何をどのように伝えればよいのか悩んだ時期があった。

 2011年度の初開催時は、企画段階から様々な葛藤を繰り返し、最終的に「伝えるべきは命の大切さであり、限りある命だからこそ命を大切にしてほしい」「たった一度の与えられた人生をより豊かに生きるよう努めてほしい」という、人としての根源的な願いに行き着いた。そして自分たちの心身を育んでくれたライフセービングを信じて、彼らと真正面から向き合おうとした。

 また、北矢からサポート依頼を受けた流通経済大学ライフセービング部(以下流通経済大LSC)においても同様の葛藤があった。部長の小峯力氏(日本ライフセービング協会理事長)と部員たちは深夜までメールによるディスカッションを重ね、いかに少年たちと接するかを模索した。


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