「以前、どこかで何かの過ちを犯してしまった手かもしれません。しかし、いま心肺蘇生法を行っているその手は人を救う手に変わっているんです。人はほんの少しのキッカケで変われるんです。しっかり教官の先生方から学ぶことにより復帰できる社会があります。退院してからも、学びなおす場所はあります。堂々と出てきてください。今日、ライフセービングに出合ったことがキッカケとなって、人生を変えてほしいと願っています。しっかりと学んでまた会いましょう。私は君たちといっしょに湘南の海に立ちたいと思っています」と北矢はメッセージを送り、本講座を締めた。
ライフセービング講座の意義
昨年に引き続き講座を開く意義を磯辺裕行法務教官に伺った。
「救急救命法は夏の水泳訓練の前にAEDの使い方や心肺蘇生法の講習を行っています。しかし、実際に救助に携わっている方たちが『あなたは愛する人を救えますか? 大切な人を守れますか?』と投げかけるその言葉にはインパクトがあります。講話のあとに感想文を書かせたのですが、その中に『自分たちは大切な人を守るどころか、その人を傷つけたり、心配を掛けたり、迷惑を掛けたりしてきた。そんな形でしか人と接してこなかった。そんな自分が、いざというときに大切な人を守れるのだろうか? と思いました』と自分の過去を振り返る生徒たちがいました。いろいろなことを考える機会になる講座です」
また、白峯博司首席専門官は、心肺蘇生法を指導する流通経済大LSCの部員たちに注目している。
「彼らはみんな伝えるという姿勢が出来ています。一人ひとりが生徒の顔を見て、しっかり投げかけをしていますし、生徒もそれを受け止めているんです。年齢の近い部員を見て『こういうカッコよさもあるんだ』と感じてほしいと思っています。バイクで暴走したり、強がってみたりするのがカッコいいんじゃなく、誰かのために鍛えるというライフセーバーのようなカッコよさが必要です。利他の心ですよね。今まで恵まれた人間関係に無い中で、がんじがらめになっていた子たちですから、こういった人たちと触れ合うことが大切なのです」
佐藤淳次長も「利他の心」を重要視する。
「ライフセービングは利他の心、愛他的行動ですよね、相手を思う気持ちを育むことができます。人には共感性が必要です。相手を思いやる気持ちが、非行の抑制や犯罪の防止に繋がります。強さと優しさ、また何かに熱くなることの大切さも、講師の先生方から感じてくれればいいと願っています」