2024年4月25日(木)

Wedge OPINION

2022年1月20日

養子縁組後に「母親の権利」を主張できるのか

 これらに加えて、内密出産を認めることは、母親自身の権利との関係でも重大な問題をはらんでいる。

 内密出産は、あくまでも母親の『情報コントロール権』の保護領域に属する事柄である。そのため、法原理的には、子どもを出産した母親が、当局に身元は明かさないものの、依然として子どもに対する『母親としての権利』は行使するということも容認される。

 このような選択がされた場合、母親は、医療機関を通じてその権利を行使することになるのであろうか。また、戸籍が信頼できないものになってしまったら、どのような方法で、自らが分娩者イコール法律上の母親であることを証明させるのであろうか。更には、養子縁組によって新たな母子関係が形成された後になって分娩者による『母親としての権利』の行使がされた場合にどのように取り扱うのであろうか。極めて不都合な事態が生じることとなろう。

現実的ではない「母親」自らの放棄

 これらの不都合を回避するためには、内密出産した以上は『母親としての権利』も放棄したと扱うことになる。ただ、このような選択を強いるのは、胎児の分娩を控えた妊婦あるいは子どもの出産直後の母親の精神状態を考慮すると、およそ適切であるとはいえないであろう。

 加えて、母親の子どもに対する情愛を鑑みれば、『情報コントロール権』と『母親としての権利』とでは、母親にとっての重要度が大きく異なる。『情報コントロール権』の行使のあり方によって『母親としての権利』の行使ができなくなるということは、いわば「角を矯めて牛を殺す」ことにほかならない。

 少なくとも、わが国では、重要な権利の放棄に当たっては、裁判所の関与が必要とされている。裁判所の関与なく『母親としての権利』を放棄させることは、法秩序の観点からおよそ容認できない。

   
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