2022年10月7日(金)

Wedge OPINION

2022年1月20日

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宗像 雄 (むなかた・ゆう)

関谷・宗像法律事務所 弁護士

関谷・宗像法律事務所パートナー弁護士。メーカー、病院、学校その他様々な企業の法務を扱う。大学で非常勤講師も務め、日本ラグビーフットボール協会ジュディシャル・オフィサーとしても活動中。

 新年早々、熊本県にある医療機関が「内密出産」を実施したことを発表した。公表されたケースとしてはわが国では初めてのものであった。

 わが国では、内密出産を認めるとの社会的な合意が形成されているとはいえない状況にある。むしろ、倫理的に許されないあるいは法律的に問題があるとの見解も強く主張されている。

(minianne/gettyimages)

 今回の発表を受けて、内密出産のあり方に関する議論がどちらの方向に向かっていくのか。一部メディアでは、社会の実情を踏まえて推進する論調もある。しかしながら、法律的にみれば乗り越えなければならないハードルが多く、容易に賛同することはできない。

内密出産とは

 内密出産(Confidential Birth)とは、子どもを出産した母親が当局に自分の身元(母親を特定することができる情報)を明かさないことをいう。出産に立ち会う医療機関には身元を明らかにしている。この点で、誰にも身元を明かさない「匿名出産」とは異なる。

 ドイツでは、内密出産を、出産直後に子どもを殺害するいわゆる嬰児殺(えいじさつ)を予防する手段の一つとして認められた。出産された子どもが婚姻関係のない男女の間に生まれた非嫡出子である場合に殺害するケースが見られていた。

 わが国でも、同様の観点から内密出産を認めるべきであるとの主張がある。経済的な事情などにより子どもを養育することが困難な母親を保護する観点からも主張されている。

 ただ、嬰児殺の予防や母親の保護は、子どもの出産に先立つ堕胎を認めるか否かを含めて議論されるべき事柄であろう。刑事学的には、嬰児殺と堕胎とは連続性を有するものと考えられている。堕胎も、後述する母親のプライバシーに属する事柄である。本来であれば、内密出産の問題の前に、出産前のことである堕胎の問題について議論を深めるべきであろう。

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