2024年4月20日(土)

Wedge OPINION

2022年2月4日

指導部が求める団結の背景
日本の国益を最大化するには

 「共同富裕の実現」という政策目標を掲げる現指導部は、より多様化、多元化した社会から、どの様にして「支配する権利」を認めてもらうのか、という課題に直面しているともいえる。いわゆる支配の正統性をめぐる問題である。指導部の目線からすれば、多様で多元的な社会に包囲されている自分達(共産党)の安全をいかに維持するのか、という課題に直面しているように見えるのかもしれない。これは皮肉なことに歴代の指導部が推進してきた「改革開放」が生んだ難題である。この難局を乗り越えるために指導部には、二つの選択肢がありそうだ。変化する社会に応じて多元主義に向けて自己改革して共産党を社会に適応させるか、経済成長の動力を破壊する可能性を黙認して社会を共産党に適応させるか、である。

 指導部は、これを二者択一で捉えていない。習と指導部の権威を高め、党の団結を強化し、多様化し多元化する社会と向き合いながら「共同富裕の実現」を模索する。しかし、その実現のための経済政策をめぐる党内の異論を封じ込めることはできない。指導部が体感するオーディエンスコストは高い。ゆえに指導部は、安定のためになおさら団結を欲する。こうして指導部は、「新たな発展段階」にある人々の動向に注意を払い、社会に圧力をかけつつ、政策決定に必要な情報を広く収集するために尽力すると同時に、より集権的な政策形成と決定、実施を求めるだろう。

 このとき、情報を上に上げる者と政策を実施する者は、指導部の選好をみて、自らの行動を指導部の意向に沿わせようと執心する。「新時代」の指導部が「共同富裕の実現」という政策課題を掲げる限り、この政策過程は変わらない。

 国力が増大し、「大国」意識を強める中国と日本はどう向き合うべきか。日本は、自らの問題関心を集権的な政策過程を頂点に位置する習に対して直接伝える機会の拡大を追求すべきだ。中国は国内政治が不安含みであるがゆえに、自らの平和と繁栄に資する国際環境の構築に積極的である。ただし、東シナ海の海洋秩序をめぐる中国の行動をみれば、それは日本が求める国際環境とは異質なものだろう。

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の加入申請にあたり、さまざまなルール適用の例外措置を求めてくるだろう。経済産業研究所(RIETI)での渡邊真理子・学習院大学教授、川島富士雄・神戸大学教授、川瀬剛志・上智大学教授と筆者の研究は、この加入申請は中国の要求に沿って国際秩序を形成するための「制度に埋め込まれたディスコースパワー(中国語で「制度性話語権」)」(自国の影響力を高める国際制度上の権力)を高めようとする取り組みの一貫であり、アジア太平洋の経済秩序の書き換えを目的していると分析した。

 したがって日本を含む国際社会は、国際社会のルールメーカーの地位を欲する中国に対して既存のルールと中国の取り組みは何が相容れないのかを明確に示す必要がある。そして日本にとって望ましい環境と中国が欲する環境が異なるのであれば、あらゆる機会を用いて、政策過程の中枢にいる習と積極的な意思疎通を通じて、既存のルールを遵守する必要があること、中国が自らの考えを実現させようとする取り組みのコストは高いことを理解させる。「制度性話語権」を取りに来ようとしている中国に向き合うための日本の方針を慎重に考える必要がある。それが日本の国益を最大化させる方法であり、地域の平和と繁栄に責任ある姿勢といえる。

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人類×テックの未来  テクノロジーの新潮流 変革のチャンスをつかめ
part1​   未来を拓くテクノロジー  
1-1 メタバースの登場は必然だった
宮田拓弥(Scrum Ventures 創業者兼ジェネラルパートナー)
  column 1   次なる技術を作るのはGAFAではない ケヴィン・ケリー(『WIRED』誌創刊編集長)
1-2 脱・中央制御型 〝群れ〟をつくるロボット 編集部
1-3 「限界」を超えよう IOWNでつくる未来の世界 編集部
  column 2   未来を見定めるための「SFプロトタイピング」  ブライアン・デイビッド・ジョンソン(フューチャリスト) 
part2   キラリと光る日本の技  
2-1 日本の文化を未来につなぐ 人のチカラと技術のチカラ 堀川晃菜(サイエンスライター/科学コミュニケーター)
2-2 日本発の先端技術 バケツ1杯の水から棲む魚が分かる! 詫摩雅子(科学ライター)
2-3 魚の養殖×ゲノム編集の可能性 食料問題解決を目指す 松永和紀(科学ジャーナリスト)
part3   コミュニケーションが生み出す力  
天才たちの雑談
松尾 豊(東京大学大学院工学系研究科 教授)
加藤真平(東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授)
瀧口友里奈(経済キャスター/東京大学工学部アドバイザリーボード・メンバー)
合田圭介(東京大学大学院理学系研究科 教授)
暦本純一(東京大学大学院情報学環 教授)
  column 3   新規ビジネスの創出にも直結 SF思考の差が国力の差になる  
宮本道人(科学文化作家/応用文学者)
part4   宇宙からの視座  
毛利衛氏 未来を語る──テクノロジーの活用と人類の繁栄 毛利 衛(宇宙飛行士)

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テクノロジーの新潮流 変革のチャンスをつかめ
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メタバース、自律型ロボット─。世界では次々と新しいテクノロジーが誕生している。日本でも既存技術を有効活用し、GAFAなどに対抗すべく、世界で主導権を握ろうとする動きもある。意外に思えるかもしれないが、かつて日本で隆盛したSF小説や漫画にヒントが隠れていたりもする。テクノロジーの新潮流が見えてきた中で、人類はこの変革のチャンスをどのように生かしていくべきか考える。


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