はびこり続ける過激思想
襲撃者らの証言によると、刑務所襲撃はより大きな攻撃計画の一環だったという。刑務所襲撃で囚人らを解放した後、ハサカから約200キロメートル離れたISの元の首都ラッカや、「アルホル収容所」を攻撃する計画だった。収容所で暮らす妻や娘を奪還する狙いがあったとみられる。この刑務所襲撃にタイミングを合わせるように、イラクでも兵舎が襲われ、兵士11人が死亡した。
最盛期にはシリアとイラクにまたがる一帯に英国と同じ面積の支配地を誇ったISも2019年3月にシリア領内の最後の拠点が陥落、壊滅した。同じ年の10月には指導者のバグダディが敵対していた国際テロ組織アルカイダ系の組織に匿われていたところを米軍に発見され、殺害された。
ISはその後、残党勢力がシリアとイラクで地元の有力者や部族指導者らにテロ攻撃を繰り返し、200人以上を殺害したが、大規模な攻撃には至っていなかった。
一方で、ISの過激思想は中東、アフリカ、アジアなどに拡散。アフガニスタンではIS分派が現在もテロを繰り返し、実権を掌握したイスラム組織タリバンと敵対している。
ベイルートの専門家らによると、シリアとイラクのISの残党勢力は約1万人と推定されているが、一般市民に紛れ込んで潜んでいる戦闘員も多いとみられている。ISはかつてトップダウンによる軍隊式の指揮命令系統を誇っていたが、今は標的にならないよう分散して活動するように変貌した。バグダディに代わる指導者となったイブラヒム・クライシの動静も不明だ。
各国が囚人送還を拒否
ISがなぜ今回、組織だった刑務所襲撃が実行できたのか、クライシの指示だったのか、などは分からないが、ISメディアは「何度ISが滅亡したと宣言すれば済むのか。敵はまたもISが蘇ったと叫んでいる」などと嘲笑った。
米国はじめIS掃討に参加した各国はISの力を見直す必要があるのではないか。言えることはシリアやイラク、アフガニスタンのような不安定な地域にISの過激思想がはびこり続けるということだろう。
もう一つ看過できない問題は各国がISの外国人囚人約5000人の送還受け入れを拒否、SDFにISの後始末を押し付けていることだ。その結果、SDFはこれら外国人を含む1万2000人の戦闘員を囚人として刑務所などに抱えているのが現実だ。中東専門誌によると、送還されるのを拒んでいるのは50カ国にも上る。