2024年4月26日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2022年2月13日

 中国が新型コロナを「人間から人間への感染があるもの」とし、対策を始めたのは20年1月20日。習近平国家主席が〝号令〟をかけるとともに、武漢市はロックダウンを敢行し、多くの場所で強制的な隔離や外出制限、検問の徹底がなされるようになった。本著の中でも、タクシーでの飛沫感染を防ぐための徹底した換気とアルコール消毒、ホテルや飲食店などで常に求められる検温と名前やパスポート番号、電話番号の記載といった様子が描かれている。

感染対策管理に力を発揮するデジタルデータ

 こうした対策は、2年ほど経過した現在の北京冬季五輪でも見られている。「昨夏の東京五輪の時と同じようにバブル方式を敷いているが、その厳格さは比にならない」と高口氏は語る。「北京では『選手と交通事故を起こしても話すな』と国民にお達しがなされている」と事例を挙げる。人と人との接触を最低限に抑え、国外から来た人とは徹底した隔離を図ることが続けられている。

 ただ、ひとえに人との接触を避けるといった「禁止令」を出したとしても、全ての人が従うとは限らない。特に「なんらかのルールを課されても、抜け穴を探そうとする人が極度に多いのが中国人」と本著でも指摘しているように、中国国内で進めることは容易でない。そこで力を発揮したのが「デジタルデータ」とそれを補う「人力」だった。

 中国では、身分証番号と携帯電話番号が紐づけられている上、身分証の顔写真データが行政府のサーバーに保管されている。ここに、コロナ禍で店舗や施設に入る時に記載を義務付けた個人情報を結び付けて、個人の感染リスクを把握することを可能にした。「公衆衛生という目的に向かい、データ統合のメリットを実感することになった」と高口氏は話す。

 実は、このデータ連携体制がすぐにできた訳ではなかった。データを保有する政府機関や企業がバラバラで、地域ごとにデータ管理システムや形式が異なる状態となってしまっていた。この状態をコロナが変えたとも言えるし、「『できるところからやる』という姿勢も道を切り開いた」と高口氏は指摘する。

 デジタル化などで新たな仕組みを導入する時には、どうしてもそこからこぼれてしまう人が出てくる。中国は、そうした例外措置を人力でカバーしているという。「高速鉄道のチケットを顔認証にしたのだが、それに対応できない高齢者には専用の窓口を設けた」(高口氏)といった形だ。コロナ対策として進めた感染リスクを把握するスマホアプリに関しても、省や市の単位だったものが全国レベルとなり、リスクの度合いもわかりやすい指標となるなど、どんどんアップデートされていった。

 コロナ対策での例外措置に対し、本著では、中国版町内会とも言える都市部での「居民委員会」や農村部での「村民委員会」、中国共産党員といった「人力」で対応する形が解説されている。できるところから始めていき理想の形に修正していく、切り捨てられてしまいそうな部分は人の手で対策を講じる。こうしたやり方は「『誰一人取り残されない』デジタル社会の実現に向けて」を掲げている日本のデジタル庁も見なければならないところなのかもしれない。


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