2022年12月4日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年2月20日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活躍。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)など多数。千葉大学客員准教授を兼務。

 日本のメディアとマーケティングはきわめて洗練されている。「今、旬なものはなにか」というメッセージは、テレビ、新聞、雑誌といったメディアから複合的に発信され、国民の多くが受信している。

 しかし、かつての中国は異なっていた。衛星テレビ、ケーブルテレビの発展により多チャンネル化が到来し、テレビの発信するメッセージは多様化していた。読売、朝日、毎日に相当するような大新聞も存在せず、都市ごとに発行されるタブロイド紙が主流だった。雑誌も大部数の週刊誌はない。

 大メディアがないことはマーケティングの統一性を難しくする。メディアごとに扱っているトピックがばらばらなために、「これが旬」というメッセージがなかなか共有されないのだ。

 08年の北京夏季五輪は現在を上回る注目度を集めたが、そもそも夏季五輪が人気コンテンツということに加え、マーケティングにかけていたリソースがケタ違いだった。数年前から国家的イベントの開催に向けて宣伝、啓蒙が繰り返された。

 外国人を迎えるための一般市民向けの英語教室が開催され、数十万人が受講したりと桁外れのキャンペーンが繰り広げられた。それに比べると、今回の冬季五輪ではコロナ禍ということもあってか、投下されたリソースは少ない。

 それでも今回、冬季五輪に人民を熱狂させることができたのはなぜか。それはスマートフォンを中心としたデジタル化だ。ソーシャルメディアやウェブニュース、動画配信サイトといったデジタルサービスは肥大化し、14億人民に統一的なメッセージを送るハードルを下げた。

不正判定疑惑が起きても逆風にならない

 人気バラエティ番組も今や主戦場はネット番組だが、芸能人がウインタースポーツをキャッキャと楽しむ番組が連発された。ドウイン(中国版ティックトック)を開けば次から次へと五輪動画が表示される。ソーシャルメディアもホットトピックは五輪の話題がずらりといった具合だ。

 盛り上がりを作っただけではない。日本をはじめ、世界的なニュースとなっているスノーボードの不正判定疑惑やフィギュアのドーピング問題など、ネガティブなニュースについては露出しないようになっている。

 習近平体制におけるキーワードの一つに「ポジティブエナジー」(正能量)がある。ネガティブなニュースを減らし、社会に希望を持てるポジティブなムードを高めようという世論コントロール戦略である。

 第二期習近平体制最終年に開催されている北京冬季五輪だが、習近平総書記の政治業績を飾るものであると同時に、この10年間に飛躍的に発展した中国の世論操作能力の到達点を示す場となった。

 
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