第24回冬季オリンピック北京大会(以下「北京五輪」)が2月4日幕を開けた。米国、英国および豪州などが新疆ウイグル自治区における中国の人権侵害を問題視して「外交ボイコット」を呼びかけた中での開催であるためか、日本でもどことなく話題に欠ける感がある。
そのような中で、韓国が開会式の内容をめぐり中国に噛み付いたことが報じられた。韓服(チマチョゴリ)問題がそれだ。本稿では韓服問題の経過を追うとともに、問題が秘める地政学的意義と北東アジアの安全保障環境に与える影響について解説していきたい。
14年間で大きく変わった韓国の中国観
まずは、韓服問題の震源地となった開会式の様子を見てみよう。
2月4日午後8時(日本時間午後9時)過ぎ、「鳥の巣」と喩えられる国家スタジアムで二十四節気にちなむ24からカウントダウンが始まり、「立春」と「SPRING」の文字が夜空に浮かび上がり、開会式の幕を切った。
スタジアムに並んだ中国の市民と民族衣装を着た56の民族代表が掲揚台まで「五星紅旗」を手渡しで運ぶ国旗入場と2008年の北京夏季五輪より相当に簡素化したパフォーマンスを経て、91カ国・地域、約2900人の選手団が入場し、習近平国家主席が開会を宣言した。
最後に行われた聖火点灯は、漢族の男性選手とウイグル族の女性選手が行った。開会式に出席し、開会宣言を行った習近平国家主席は「外交ボイコット」が行われる中で、民族融和と人権への配慮をアピールしたい思惑があったとみられる。
そんな思惑をよそに、開会式冒頭わずか数分間の中国国旗の入場に韓国世論が大きく反発した。韓国の伝統衣装である韓服が、中国少数民族の衣装として登場したからだ。
韓国の外交部当局者が6日、「韓服が世界から認められている韓国の代表的な文化の一つであることは改めて論じるまでもない」と懸念を表明すると、在韓中国大使館報道官は8日、「一部メディアで中国が文化略奪をしているとの憶測や非難が出ていることに注意を傾けている」と述べつつ、「中国内の朝鮮族と朝鮮半島の南北双方は同じ血統と共通の伝統文化を持っている。こうした伝統文化は朝鮮半島のものであり、中国朝鮮族のもの」と反論した。
さらに9日になって、米国のコルソ駐韓代理大使が韓国の名所を韓服姿で訪れた際の写真をTwitterに公開した上で、「韓国といえば何を思い浮かべる? キムチ、K -POP、韓流ドラマ、そしてもちろん韓服だ」と〝介入〟。1カ月後に韓国大統領選挙を控えた候補者も「祭典を文化工程に利用していないか、中国政府は答えなければならない」(李在明・共に民主党候補)、「高句麗と渤海は大韓民国の誇らしく輝かしい歴史。他人のものではない」(尹錫悦・国民の力候補)と、左右の立場の違いを超えて中国に反発した。
しかし、歴史を遡ってみれば、08年北京夏季五輪の際にも国旗入場に韓服姿の少女が登場したし、中国悠久の歴史を誇示する1時間以上にわたるパフォーマンスでは朝鮮族で構成する吉林省延辺歌舞団が韓服姿で扇舞を披露した。だが、このとき韓国から韓服問題が提起されることはなかった。