事大主義と現実に揺れる韓国
では、なぜ東北工程という背景がありながら、08年には韓服問題が提起されず、22年には政府の反応と世論が高潮したのだろうか。その変節点となったのが16年の終末高高度防衛ミサイル(THAAD)問題だ。
米国からTHAAD配備の要望を受けた韓国は在韓米軍への配備を了承し、17年には6基が配備された。すると、中国は韓国で〝爆買い〟する団体旅行を事実上禁止するとともに、国営メディアが韓国製品のボイコットを訴え、ロッテグループにサイバー攻撃を行った。最大の貿易相手国から過酷な制裁を受けた韓国は大混乱に陥り、これが当時の朴槿恵大統領に引導を渡す理由の一つとなった。
その後誕生した文在寅政権は発足からわずか2カ月後、THAADの追加配備を行わない、米国のミサイル防衛に参加しない、日米韓を軍事同盟化しないとの方針を発表し、THAAD問題で白旗を上げざるを得なかった。
このように一見すると韓国のいちゃもんとも捉えられる韓服問題は、北東アジアが内在する地政学的問題と現実的な安全保障問題が背景にあることが分かる。半導体サプライチェーンをめぐる経済安全保障が米中の新たな戦いとなった現在、韓国は華夷秩序を引きずって中国側に付くのか、主要先進国の一員として米国側に付くのかという岐路に立たされている。常識的に考えれば、米国側に付く以外の選択肢はないはずだが、中国という選択肢を捨てきれないほどにその影響力は計り知れないということだ。
韓服問題については、韓国人の特質と捉えてエンターテイメント的に消費するのか、複雑な環境に置かれた韓国人の葛藤が表出したものと理解するのかで、全く別の解釈が成り立つ。この問題が日本人に教えてくれることは、国際問題を皮相的に見るのではなく、その背景と将来への影響を深く考察しなければならないということに他ならない。